本教室では1965年以来組織培養法を応用しヒト口腔領域の正常ならびに腫瘍組織の動態解明を試み, その成果を発表してきたが, 著者はこれらの知見を一層明確にするために, 前報において顕微鏡映画法ならびに
3H-TdR投与オートラジオグラフィーを応用してヒト口腔上皮細胞の形態, 動き, 増殖の様相の経日的推移について検索を行なった。今回は多種多様にわたる口腔腫瘍の動態解析のために前報と同様の方法を用いて検索を行なった。
研究材料は, 東京医科歯科大学歯学部付属病院第1口腔外科を受診した患者のうち, 良性腫瘍13例, 悪性腫瘍17例の試験切除片および手術摘出物より得た。培養法は直接カバーグラス法により, 培養液はEagle MEMニッサンを用い, 37℃のCO
2培養器で培養した。顕微鏡映画撮影は培養後20時間目から行ない, 同時にその同型培養体に対し
3H-TdR (0.5μCi/ml) を1cc, 1.5時間投与した後固定し, オートラジオグラフを作製してDNA標識指数および分裂指数を計測した。
良性腫瘍由来上皮性細胞は, 一般にシートを形成して遊出し, 細胞間結合を保った比較的均一な細胞集団より成っており, 細胞の動き, 増殖は緩慢な例が多かった。シートの形, 細胞形態などは各腫瘍間, 培養例によって特徴的所見を認めた。
悪性腫瘍由来細胞は明瞭なシートを形成することは少なく, 細胞結合も弱く, 細胞異型性が著明であった。
細胞の動き, 増殖は活発な例が多く, 6~7カ月以上の長期にわたり分裂増殖を持続する例もあった。細胞分裂像には多極分裂などが多数見られ, それらは分裂時間が2~3時間に延長していた。またオートラジオグラフィーにより得られたL.I.とM.I.の経日的推移の曲線は, ほぼ相似の関係が認められ, 本実験における腫瘍細胞においてDNA合成を行なった細胞のほとんどが分裂を行なっていくものと考えられた。また, L.I., M.I.および顕微鏡映画法により測定された分裂時間の計測値とから求めたDNA合成時間および世代時間の推定値は, それぞれ良性腫瘍では, 多形性腺腫が前者11.2時間, 後者61.0時間, 以下同様にエナメル上皮腫が13.5時間, 115.7時間であり, 悪性腫瘍では扁平上皮癌が14.5時間, 45.6時間, 腺様嚢胞癌が6.9時間, 46.6時間, エナメル上皮肉腫が9.2時間, 139.8時間であり, 各腫瘍間に差異が認められた。
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