口腔病学会雑誌
Online ISSN : 1884-5185
Print ISSN : 0300-9149
ラツトの硬組織に及ぼすフルオロ酢酸およびクエン酸の効果に関する研究
山田 嘉尚
著者情報
ジャーナル フリー

1979 年 46 巻 4 号 p. 363-388

詳細
抄録

クエン酸代謝障害の硬組織に及ぼす影響を解明する目的で, Wistar系雄性ラットを用い, TCA回路阻害剤であるfluoroacetateおよびsodium citrateを皮下注射し, ラット切歯象牙質と顎骨ならびに脛骨の変化について検索を行った。Fluoroacetate注射後24時間の切歯象牙質形成は著しく抑制され, microradiographにより石灰化の阻害像も観察された。この石灰化不全象牙質はhematoxylinおよびtoluidine blueにはほとんど染色性を欠き, PAS陽性を呈する異常象牙質であることが判明した。また, fluoroacetateの大量投与により象牙芽細胞は壊死に陥る像が認められ, fluoroacetateが象牙質基質形成を司る細胞に対して, 著しい障害作用を及ぼすことが示唆された。Fluoroacetate注射後, ラットの血清クエン酸量は有意に増加し, このクエン酸の増加と平行して血清カルシウムも増加することが示され, また, 血清無機リンもこれに伴って増加する傾向が認められた。Fluoroacetateの連続投与により, 象牙質にクエン酸および無機リンの増量が認められたが, カルシウムには有意の増加は認められなかった。一方, 骨組織においては, 下顎歯槽骨にalveolar crestの吸収を伴う骨質破壊像が観察され, 皮質骨においては骨ミネラルの喪失を示唆する所見が得られた。さらに脛骨骨端部においては化骨機転の障害像が観察された。
Sodium citrateを投与した場合には, 血清クエン酸, カルシウムの増加および象牙質の石灰化障害などの変化は認められたが, fluoroacetate投与後におけるような著しい象牙質形成障害は認められなかった。また血清クエン酸の増量と象牙質の形成抑制度との間には直接的な相関関係は認められなかった。Sodium citrateの連続投与により象牙質のクエン酸, カルシウムおよび無機リン量の変化にはfluoroacetateの場合とほぼ同様の関係が認められ, また下顎歯槽骨には骨ミネラルの喪失を思わせる骨質破壊像が観察された。

著者関連情報
© 口腔病学会
前の記事 次の記事
feedback
Top