2020 年 19 巻 p. 70-82
福島原発事故による避難者が「ふるさと」に帰還しはじめた。社会学はこの状況をどのように捉えるのだろうか。本稿は、避難者が帰還しても戻らない「ふるさと剥奪」被害を論じる。「ふるさと」とは、人と自然がかかわり、人と人とがつながり、それらが持続的である場所のことである。だが、帰還後も人々は「ふるさと」を奪われたままで、復興事業はショック・ドクトリンをもたらすばかりである。本稿は、福島県の中山間地の集落を例に、避難を終えても終わらない被害を共同性の解体という点から捉え、「ふるさと剥奪」の不可逆な被害を論じたい。