フォーラム現代社会学
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特集 2010年代の政治と権力―何が破壊され、何が生まれたのか?
「鉄の檻」から「脆弱な殻」へ
―官僚制の変容―
野口 雅弘
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2021 年 20 巻 p. 33-42

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抄録

日本における官僚制をめぐる言説とその変容を検討することで、「2010年代の政治と権力」の特徴と問題について考察することが、このペイパーの目的である。

1990年代の橋本行革以来、内閣機能の強化が図られてきた。公務員および公務員組織をバッシングして、政治的求心力を獲得するというのが、この時代の統治の特徴であった。エリートや既得権に対抗する下からの運動を「ポピュリズム」と呼ぶとすれば、「2010年代の政治と権力」は「官僚叩きポピュリズム」の力学で動いてきたといえる。

菅首相は「縦割り」打破といっている。しかし、いま私たちが目にしているのは、不毛な「官庁セクショナリズム」による行政のアナーキーではない。むしろ問題は、首相やその周辺への「権力の偏重」であり、権力の私物化であり、気まぐれな政策(アベノマスク、GoTo)の垂れ流しである。

かつて「リベラル」の課題は官僚制の「鉄の檻」(マックス・ウェーバー)に抵抗することだった。しかし今日、「官僚叩きポピュリズム」の結果、国家公務員採用試験の受験者は減り続け、若手官僚の離職も深刻になっている。官僚組織は「鉄の檻」ではなく、メンテナンスが必要な「脆弱な殻」という視点からも考察される必要がある。旧来のテクノクラシー(「官治」)批判の構図で議論を継続することはもはや適切ではない。

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