フォーラム現代社会学
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特集Ⅱ オーラル・ヒストリーと歴史
オーラルストーリーと個人の「歴史化」 : ある日系アメリカ人一世の「ライフ」への視点
小林 多寿子
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2008 年 7 巻 p. 49-61

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抄録
ある1人の日系アメリカ人一世の「ライフ」をオーラルストーリーからとらえる試みを紹介しながら、歴史的出来事や歴史的人物へのオーラリティに着目したアプローチの可能性を検討し、「生きられた経験」のオーラルな語りに注目する社会学的手法が「歴史」へいかに迫りうるかを考える。いまは死者となった歴史的人物の「ライフ」をリテラルな史資料からではなく、コンソシエーツと同時代者という2種類の他者のオーラルストーリーから描きだそうとしている。この視点は、現在-過去の関係性をもとに「歴史」を考え、<現在>における営みのなかに過去が「歴史化」されていく現象をオーラリティという現在性、声という現前性をふまえてとらえるものである。個人の「歴史化」されていく状況を他者のオーラルな語りからとらえる方法は「歴史化」という概念に新たな観点をもたらしてくれる。「歴史化」とは歴史年表に記されたり歴史書で叙述されるだけではなく、同時代者から「歴史的過去へむかう記憶の中継点の役を果たす」先行者への移行過程に「歴史化」をみることができる。さらに、集合的記憶と個人のストーリーの問題に関わって「歴史化」を考える観点も示すことができ、<現在>において集合的にストーリーを語る/聞く、語られる/聞かれるという行為のなかに過去が「歴史化」されるさまを指摘している。
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© 2008 関西社会学会
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