フォーラム現代社会学
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Print ISSN : 1347-4057
特集Ⅱ オーラル・ヒストリーと歴史
地方教育史研究におけるインタビューの可能性 : 紙の世界の向こうを張ろうとする<声>をきく
倉石 一郎
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2008 年 7 巻 p. 72-83

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抄録

高知県において敗戦直後から1970年代にかけて活躍した、「福祉教員」の活動に焦点を当てた地方教育史研究のなかで、その草分け的存在であるF先生に行ったインタビュー経験を手がかりに、インタビューを相互行為として捉える構築主義的視点が地方教育史研究にどのように資する可能性があるかを考察した。本事例においては、インタビューのなかでF先生がしきりと、同じく福祉教員経験者であり解放教育運動の全国的リーダーとして著名だったT氏(故人)を引き合いに出していたことに注目した。F先生のインタビュー全体を貫いていた、戦前の青年学校教員時代からの同和教育の先駆者としての「矜持の語り」のコンテクストで考えたとき、この頻繁な言及は単なる人物月旦や個人的感情の表出ではなく、福祉教員についての通り一辺倒な理解を流通させ、結果としてT氏のかげでF先生の存在を周縁化してしまった「紙の世界」への、強力な異議申し立てとして解釈できることを示した。「中央」と地方との権力関係を反映させてもいるこうした「紙の世界」の向こうを張ろうとする声を聞き分けることが、地方教育史研究における構築主義的視点の一つの可能性と言えよう。

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© 2008 関西社会学会
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