フォーラム現代社会学
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論文
イギリスの人種関係政策をめぐる論争とその盲点 : ポスト多文化主義における社会的結束と文化的多様性について
安達 智史
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2008 年 7 巻 p. 87-99

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抄録

グローバル化による社会的多様性の増大は、差異への恐怖を生み出し、異質性の排除を謳う極右政党の台頭にみる「不安の政治」を拡張させている。それは、差異を単純に称揚する従来の多文化主義に限界を突きつけている。不安の政治の高まりによる社会的緊張のひとつの帰結が、2001年の北イングランドにおける過去最悪規模の暴動である。以降、人種関係はイギリスの中心的な議題となっている。その議論のなかで準拠されるのが、内務省の『カントル報告』とラニミード・トラストの『パレク報告』である。前者は共通の義務を基礎にした文化的多様性の統合を、後者は文化的多様性の承認を通じた自発的結束をビジョンとして掲げている。この2つの社会ビジョンを基礎に、世紀転換期のイギリス社会のあり方が論争されている。だが、これらの議論はBritishnessへの包摂がひとつの争点となっているにもかかわらず、白人マジョリティのBritishnessからの疎外という重大な問題を扱い損ねている。『パレク報告』のビジョンは多様性を強調しすぎるために不安の政治を活性化させ、『カントル報告』のビジョンは不安の政治に配慮するがマジョリティに多文化状況への適切な適応を促すことができない。結果、極右政党の台頭を招いている。本稿は、ポスト多文化主義社会における結束と多様性の新たな配分を探るため、2つの社会ビジョンを相補的にとらえることを提案する。

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© 2008 関西社会学会
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