京都先端科学大学経済経営学部論集
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社会学領域
近代日本の七夕祭:国民の夢の道のり
川田 耕
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2024 年 2024 巻 7 号 p. 61-75

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抄録

近世の日本列島における七夕祭は、地域ないし家族という小共同体を母体とし、それゆえに場所によって変移する子どもたちの祭りであったが、近代化が始まると都市部から急速に衰えはじめた。しかし明治時代の終わり頃から、モダンな知識人たちが、童心の理想化という大正時代の文化的・精神的な流れとも共振して、七夕祭をノスタルジックに回顧するようになる。そのような流れのなかで、多くの大人たちが、「集合的記憶」としての七夕祭の価値を見直し、子どもたちにも七夕祭を経験させたいと願うようになり、出版文化や商業活動にも七夕が物語や行事として取り込まれていった。大正時代以降、国の学校教育システムにも、国語教育や音楽教育において七夕が盛んに取り込まれるようになり、終戦直後には他の伝統行事にもまして七夕は本格的に公的教育のなかに組み込まれ、ほぼすべての国民が子ども時代によく似た七夕行事を経験するようになる。このような20世紀の前半の七夕の国民化の過程で注目されるのは、七夕祭の存立基盤が、小共同体から出版文化・商業活動へ、さらには公的な学校教育へと、ドラスティックに変転したにもかかわらず、また昭和の軍国主義の時代を経たにもかかわらず、なお七夕祭が続いた、ということである。そこに、子どもたちが七夕に遊び願い祈ることを促した、大人たちの持続的な情愛の存在を見出すことができるだろう。

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