1997 年 28 巻 4 号 p. 499-506
虚血前後の脳温は,その後,引き続いて起こる遅発性神経細胞死を規定する一因子である。本研究では再潅流時に同様に大きく変化する脳血流量と虚血中の脳温との関連を検討した。ハロタン麻酔下の21匹のスナネズミを用いた。硬膜上の温度および大脳皮質の血流量を連続的に測定した。両側総頚動脈を糸にて5分間閉塞し,その後血流を再開させた。7日後,病理組織標本にて海馬領域の錐体細胞の脱落を評価した。脳血流は再潅流時,一過性の過血流を呈したものと(n=8),変化しなかった(n=13)ものの2つのタイプに分かれた。前者の虚血中の脳温は33.3±0.3℃であり,後者は34.7±0.3℃で有意に高かった(P<0.05)。すなわち,虚血中の脳温が低いものほど再潅流時の脳血流の変化が大きかった。また,虚血時の脳温と海馬CA-1の残存錐体細胞の間には負の相関がみられた(P<0.01)。虚血中の低脳温と再潅流時の血流の大きな変動,海馬神経細胞の生存の3者には相関がみられた。