1987 年 1987 巻 56 号 p. 1-14
人間が対象的に取り扱かわれることがますます一般的となり、一人一人のかけがえのなさがともすれば忘れられがちな現代において、教育の領域で、子どもや青年一人一人の個性の尊重とか、一人一人の子どもや青年を生かすといったことが主張されるのには、十分な理由があると思われる。ただ、そうした主張が有意義であるためには、「実存は、その自由の根底から、他の実存と本質的に相違している (wesensverschieden) 」といわれるような、他との比較を絶した自己自身としての実存という人間理解にまで至らねばならないのではないだろうか。小論は、そうした問題意識を背景にして、実存を哲学することの中心に置いたヤスパースの実存哲学から、教育を問いかえそうとする一つの試みである。