教育哲学研究
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佐藤隆之著『キルパトリック教育思想の研究-アメリカにおけるプロジェクト・メソッド論の形成と展開-』
宮本 健市郎
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2005 年 2005 巻 92 号 p. 117-124

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抄録

二〇〇二年の学習指導要領によって導入されたばかりの総合的な学習の時間 (総合学習) が危機に瀕している。総合学習を学力低下と直結させる思考の短絡さをあらためて論ずる必要はないだろう。だが、そのような短絡的な発想にもとついて教育政策が進められている現実を見ると、一世紀以上をかけて作り上げられてきた総合学習の理論が一般には理解されていないことを痛感させられる。この点で研究者の努力の不足は認めざるをえない。
このような時に、キルパトリックの教育思想にかんする日本で初めての本格的な研究書が公刊されたことの意義は大きい。言うまでもなく、キルパトリックは、アメリカ進歩主義教育の中でデューイに次いで重要な思想家であり、教育実践上の指導的立場にあった。彼の開発したプロジェクト.メソッドは総合学習の典型であり、大正期から昭和初期に構案法として、我が国でも実施されたことは周知のことである。にもかかわらず、彼に対する評価はわが国では必ずしも高くない。彼の思想はデューイ理論の通俗化とみなされ、プロジェクト・メソッドの実践は反知性主義として批判されることが多い。彼の思想の本格的な研究がほとんどなされないままに、低い評価が与えられ続けてきたのが実情ではなかっただろうか。佐藤隆之氏は、先行研究を丹念に参照しながら、キルパトリックのプロジェクト・メソッド論に焦点を絞って、キルパトリックの思想とプロジェクト・メソッドの論理を解明する。そして、「理想への投企」として、プロジェクト・メソッドの意義を見出すのである。
著者はプロジェクト・メソッドを現代の総合学習に直結させて論じてはいないが、プロジェクト・メソッドは現代の総合学習の一つのモデルであるから、著者がプロジェクト・メソッドの可能性を明示したことは、著者の意図を超えて、総合学習を否定しようとする日本の現状にたいする批判にもなっている。その意味では、本書は現状への問題提起の書であり、総合学習に関心をもつ人々には待望の書である。

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