九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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広範囲腱板断裂の自動拳上制限因子の検討
*尾道 健太郎*辛嶋 良介*井原 拓哉*橋本 裕司*羽田 見奈*羽田野 裕稀*松尾 智亜季*近藤 征治*川嶌 眞人
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p. 75

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抄録

【目的】

広範囲腱板断裂は自動拳上制限や筋力低下が主症状となる。なかには自動拳上が不可能となる偽性麻痺を呈する症例がみられるが、予後も様々であり詳細が不明な点も多い。そこで、自験例の広範囲腱板断裂に対する保存療法の経過を調査して、偽性麻痺の発症頻度やその要因について検討した。

【対象と方法】

2017年1月から2018年1月にかけて広範囲腱板断裂と診断され、保存療法を行った男性4肩、女性1肩、平均年齢72.4歳(66-81歳)を対象とした。受傷機転や運動療法開始時と終了時の運動療法評価を電子カルテで調査した。また、MRIのT2強調撮影にて取得した画像において、松村らの方法に準じて、骨頭を基準として前方2区画、上方、後方2区画の計5区画に分類した。すなわち、前方2区画は肩甲下筋の上部と下部、上方は棘上筋、後方2区画は棘下筋と小円筋であり、その区画内の高輝度信号変化を認める区画を調査した。

【結果】

断裂区画は、肩甲下筋腱上部+棘上筋腱+棘下筋腱が3肩、棘上筋腱+棘下筋腱が1肩、肩甲下筋腱上部+棘上筋腱が1肩であった。治療期間は平均5.2ヶ月、平均自動拳上角度は開始時98±60.4°、最終時141±51.9°であった。そのうち、2肩が開始時に偽性麻痺を呈しており、いずれも区画は肩甲下筋腱上部+棘上筋腱+棘下筋腱であった。

症例1は72歳男性、現病歴は運動療法開始の半年前に特に誘因なく疼痛が出現し、自動拳上が困難となった。開始時の自動拳上は15°であり、三角筋前部線維の収縮が不十分であった。5ヵ月の治療後も自動拳上は40°と著しい制限を認め、偽性麻痺が継続していた。症例2は74歳男性、現病歴は2週間前に重量物を引っ張る動作で疼痛が出現、自動拳上が困難となった。開始時の自動拳上は35°であり、7ヵ月の治療後、自動拳上は170°と偽性麻痺は消失していた。

【考察】

Burkhartらは、自動拳上には前後の腱板筋の合力による、骨頭の安定化が重要であると述べている。今回の調査では、肩甲下筋腱上部+棘上筋腱+棘下筋腱が断裂区画であった3肩のうち、2肩が偽性麻痺を呈していた。症例2は疼痛の減少と共に自動拳上が向上したことから、腱板筋の前後のバランスが保たれていれば、疼痛の減少と共に自動拳上は向上すると思われる。しかし、症例1は疼痛の減少はみられたものの、自動拳上の制限は残存したままであった。この要因として症例1は、三角筋前部線維の収縮が不十分である為、上腕骨を引き上げるouter muscleとしての機能も低下していることが、自動拳上を制限する一要因となったと思われた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は、当院倫理委員会の承認を受け、(承認番号:20190704-1)、ヘルシンキ宣言に則って対象者に十分説明を行い、同意を得て実施した。また、研究に先立ち利益相反関係ある企業等はない。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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