主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 91
【諸言】
Bickerstaff型脳幹脳炎(以下BBE)は眼球運動障害や運動失調、意識障害を三主徴とし、脳幹を病変の首座とする自己免疫疾患である。症状は4週以内にピークとなり、その後は徐々に回復する。一方で、発症1年後に約1割の症例で自力歩行ができないことが明らかにされている。本疾患は、指定難病の一つでもあり、我が国での発症者は年間約100例と少なく、リハビリテーションに関連した報告も極めて少ない。今回BBEと診断され、回復期リハ病棟での介入の機会を得た為、報告する。
【症例紹介】自営業を営む70歳代女性。感冒症状後ふらつきが生じ、数日後に起立不能となりA病院へ入院となった。その後に意識障害が出現し、B病院へ転院となった。軽度意識障害、眼球運動障害(左眼が軽度内転する他はほぼ正中固定)、体幹失調、深部腱反射消失を認めた。画像所見では、異常は認められず、BEEと診断された。免疫グロブリン投与1クール施行後、改善傾向となり、44病日後に当センター回復期リハ病棟へ転院となった。
【評価、介入】入院時は意識清明、四肢の筋力4、複視、左眼瞼下垂、高次脳機能障害(注意障害、記憶障害、病識の欠如)を呈していた。病棟内ADLは、歩行器を使用し見守りにて行えたが、歩行時は周囲の壁等に衝突する事があった。複視は両眼でも片眼でも生じ、片眼では左眼で顕著であった。眼球運動は、両眼ともに可動範囲は良好であったが、衝動性・追従性眼球運動は難しく、左側方注視にて複視が増悪した。閉眼での立位保持に異常はなく、めまいの訴えはなかった。理学療法では、眼球運動、顔面筋運動、四肢の筋力増強運動、歩行練習を主に行った。眼球運動は、座位にて患者の正面から介入し、症例の顔面から約50cmに位置させたペン先を注視してもらい、主として、側方注視、衝動性・追従性眼球運動を反復して行った。頻度は、毎日10分程度行った。
【経過】50病日目に居室内歩行器歩行自立、71病日目に病棟内歩行器歩行自立、94病日目に独歩自立となった。複視は、日差を認めるものの、95病日目にはほぼ消失し、左側下方注視でのみ残存した。130病日目に自宅退院となり、退院時には複視は消失していた。復職を希望されており、外来OTで高次脳機能障害等の支援継続となった。
【考察】初期評価において画像上は異常所見が無い事、また、経過も緩徐であるが改善傾向を示していたことから、積極的なリハビリテーションを提供した。また、理学療法においては複視が歩行困難の最大の要因と考え、側方注視や衝動性・追従性眼球運動を反復し、良好な結果が得ることができた。本報告は症例検討であるため、BEEへの眼球運動障害に対する介入として一般化はできない。また、本疾患において高次脳機能障害を呈する報告はなく、追って報告するとともに、希少症例への介入報告の蓄積を行っていく。
【倫理的配慮,説明と同意】
報告の趣旨を本人に説明し同意を得た。