主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【症例紹介】
23 歳女性。マンション5 階より飛び降り両大腿骨遠位部骨折(AO 分類:typeC)を受傷。搬送当日に両大腿骨の創外固定を行い、待機的に骨接合術が施行された。その後、骨盤輪骨折と左足関節開放脱臼骨折に対し骨接合術が施行され、術後6 週免荷、術後12 週より全荷重とし理学療法を開始した。
【評価結果と問題点】
受傷時のCT では大腿骨遠位骨幹部は両側とも前方へ転位し内側広筋膜を突破、右側では開放創を認めた(Gustilo3A)。大腿骨顆部を両側とも内外側よりプレートで固定し、内側広筋の筋断裂に対しては筋膜縫合が行われた。術後の膝関節可動域は右:伸展−10°屈曲80°、左:伸展−15 °屈曲90°で、Extension Lag は両側−40°であった。膝関節伸展位での膝蓋骨は低位に位置し、エコーでは屈曲運動時の膝蓋骨の遠位方向への動きが制限されていた。また両膝関節周囲で創治癒が一部遅延し、著明な皮膚滑走の低下がみられ屈曲運動時の制限因子となっていた。
【介入内容と結果】
立位保持と起立動作の獲得を目標に、膝関節伸展可動域拡大を最優先とし術後早期より膝関節可動域運動を開始した。伸展可動域運動は膝蓋骨を近位へ誘導、膝蓋下脂肪体を前方かつ上方へ牽引し行った。屈曲可動域運動は膝関節周囲の創部や筋膜縫合された内側広筋に伸張ストレスがかからないよう配慮し、膝蓋骨を遠位方向、脛骨を内旋方向へ誘導し膝関節屈筋群を収縮させながら行った。術後6 週:膝関節伸展可動域は0°を獲得できたが、屈曲可動域は100°以上の可動域拡大が停滞した。術後8 週:右下肢のみ部分荷重を開始、立位保持が困難であったため獲得した膝関節伸展領域での大腿四頭筋トレーニングと動作練習を中心とした運動療法へ変更し、立位保持と起立動作の獲得を目指した。
術後13 週:膝関節可動域は右:伸展0°屈曲100°、左:伸展0°屈曲110°、Extension Lag は両側ともに−10°へ改善した。両膝関節伸展0°での立位保持が可能となり起立動作が自立となった。その後、他院へ転院となり、術後6 ヶ月で歩行可能になった。
【考察】
本症例は骨折線が大腿骨膝関節面まで及び、開放創や重度の軟部組織損傷、プレート固定により膝関節の可動域制限が必発することが予測された。膝蓋骨アライメントや軟部組織動態を考慮した関節可動域運動を早期より行うことで、両膝関節ともに伸展0°を獲得することができた。屈曲可動域拡大に難渋した要因としては、膝関節周囲の創治癒が一部遅延し、獲得した可動域が翌日には戻ってしまうリバウンド現象が持続したことが一要因と思われる。可動域拡大が停滞した時期に漫然と関節可動域運動を継続せず、獲得した関節可動域内での筋力トレーニングや動作練習を中心とした運動療法へ変更を行ったことが動作獲得につながったと考える。
【結語】
骨折に伴う重度の軟部組織損傷や開放創のある症例では、軟部組織の治癒が遅延すると関節可動域拡大に影響を与える。軟部組織の回復過程や回復状態に合わせた運動療法を選択していくことが良好な結果に結びつくと考える。
【倫理的配慮、説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき個人情報を厳守することを説明し同意を得た。