九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-42
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ポスター7
左側からの起き上がり動作第1 相に着目した事で歩行の安定性向上に繋がった症例
平野 李帆
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抄録

【はじめに、目的】

アテローム血栓性脳梗塞(右放線冠)左片麻痺を呈した症例に対し、歩行時の右立脚後期において右肩甲骨前方回旋に伴う骨盤右回旋・後方変位に着目した結果、右立脚後期の骨盤右回旋が高まり、起居動作、歩行の安定性が向上してきた事をここに報告する。宮越らによると、脳卒中患者のADL に最大の影響を与えるものは移動能力であると述べており、今回歩行の不安定性が見られた為、着目点を歩行に絞った。鈴木は「正常歩行動作の立脚中期から後期の間で立脚側外腹斜筋が求心性に作用することで体幹の反対側への回旋が生じる」と報告、また三津橋らは「正常歩行では内腹斜筋は歩行立脚中期、外腹斜筋は歩行立脚後期~終期にかけて主に筋活動が増大する」と報告している。これらから歩行時の回旋力に対して腹斜筋への重要性が示唆されていると考え、起居動作のメカニズムを利用し、今回起き上がり動作評価にて左右差が生じた為、腹斜筋の機能に重きを置いた。

【方法】

本症例に対して、脳卒中片麻痺に対する新しい治療法である促通反復療法を参考にした。川平らによると、促通反復療法は上下肢の促通手技が主に用いられているが、その他に体幹の促通手技が存在する。体幹筋への促通反復療法は、寝返りなどの基本動作や、歩行時における骨盤操作の改善を目的としていると述べているが、これまでに有効性は示されていないと報告されている。しかし今回、体幹回旋・側屈の運動パターンを参考にし腹斜筋群や腰方形筋への伸張刺激を入れることで起き上がり動作・歩行の安定性へ繋げる為に遂行した。

【結果】

左側からの起き上がり第1 相~2 相にかけて、体軸内回旋力が作用しやすくなり、上部体幹に関係する右外腹斜筋・左内腹斜筋の活動性が向上したと考える。

またMMT からも3 ~4 レベルと向上が見られた。本症例の6MWD 評価において、初期では270m だったものの、最終評価時300m の距離を歩行可能となっており30m 程度では耐久性の面でも向上が見られた。

【考察】

正常歩行では通常、右Mst ~Tst にかけて肩甲骨は前方回旋、骨盤は後方回旋していく。本症例は右Mst ~Tst 時の左肩甲骨前方回旋・骨盤右回旋力の減少、また骨盤側方へ移動しわずかに左側屈が起こる事で、最終的に歩行バランス・耐久性の低下の原因となってしまうと考えられた。吉元らによると、歩行時における体幹の安定性と随意的なコントロールは歩行周期全体を通して重要であり、また直立二足歩行において対角線上にある上下肢の協調運動に伴い、体幹における肩甲帯と骨盤帯とでは回旋が生じ、体幹の回旋は歩行動作に大きな影響を与えている事が報告されており、また歩行時の回旋力に対して腹斜筋への重要性が示唆されている事を踏まえ、腹斜筋への促通が大きく影響する寝返り・起き上がり動作の反復が今回の介入の軸となった。

【結論】

これらから、回復期病棟では、概ね2 ~3 ヶ月程度で基本動作・IADLの獲得や歩行能力向上等に務め、実際的な基本動作能力を高める事やADL自立に向けた実効性のあるものを総合的に判断・選択していくことが重要になるが、急性期病棟では全身状態やリスク管理、プロトコル通りといった、症状に合わせてプログラムを構成し、リハビリを実施するケースが多く、今回のように急性期病棟で2 週間介入してきた事が、回復期への円滑な移行に繋げられたのではないかと考える。

【倫理的配慮、説明と同意】

今回の発表において、個人的な情報が特定されないこと、ならびに本症例様に対して目的や内容を十分に説明し口頭と書面にて同意を得ている。

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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