九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-81
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ポスター14
精神科における理学療法士の現状と課題
松崎 秀隆中島 譲治
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キーワード: 精神科, 理学療法, 高齢化
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抄録

【はじめに】

理学療法士(以下,PT)及び作業療法士法において「PT とは身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること」と定義されている.そんな中,令和2 年度の診療報酬改定で,精神科療養病棟に入院する患者の高齢化および身体合併症等の実態を踏まえ,疾患別リハビリテーション料及びリハビリテーション総合計画評価料(以下,疾患別)の算定が可能となった.そこで,本調査研究の目的は,精神科におけるPT の現状と課題を明確にすることである.

【対象】

対象は,精神科を標榜するA 病院入院中でPT の対象となった入院患者40 名(男性10 名,女性30 名,平均年齢74.1 ± 11.1 歳)である.

【方法】

調査期間は令和3 年6 月~令和4 年1 月,調査項目は精神疾患診断名および疾患別診断名.医師,看護師および介護スタッフ(以下,スタッフ)からPT に対する質問や要望件数などの内容分析とした.

【結果】

精神疾患診断名の60.0%(24 例)は統合失調症であり,次に多かったのが認知症(アルツハイマー含む)の15.0%(6 例),その他は器質性精神病やうつ病であった.疾患別の診断名については,77.5%(31 例)が膝や股関節,腰椎の変性疾患であり,人工関節等の手術後は12.5%(5 例)であった.PT への質問,要望については起居,歩行動作の評価が17 件,車椅子や歩行器の選定や調整が12 件,スタッフに対する身体介助方法の指導が4 件,精神科デイ・ナイト・ケアでの健康教室の開催が5 件となった.

【考察】

本調査における精神疾患名の割合は,厚生労働省発表の入院患者疾病別内訳と同様の結果となった.また,スタッフが歩行能力の把握や身体介助方法に苦慮しながら勤務していることも明らかとなった.このことは,一般病院と同じように,精神科においても起立,歩行の可否は身体支援,介助を行う上でスタッフの大きな指標の一つになることを示唆するものとなった.PT の役割として,まずは起居および歩行能力の把握と維持改善へ向けたアプローチ.そして,スタッフに対する身体介助方法の指導,車椅子などの選定、助言になると考えられる.一方,精神科特有の他患に対する暴力行為や怒声,向精神薬の副作用,精神発達遅滞など,併存する病状などの知識習得にも目を向け,十分に対応する能力が必要となることは言うまでもない.これまで作業療法士が中心となり実施してきた,集団療法や社会生活技能訓練(Social Skills Training)などの精神面への働きかけを考慮しながら,高齢化による全身持久力低下や生活活動範囲の狭小化にも目を向け,身体機能の向上にアプローチする取り組みを進めていきたい.本調査結果からも,精神疾患に付随する身体機能障害に対しPT としてアプローチする必要性は高い.さらに,精神科においてもPT 勤務が必要との認識をどのように周知して行くのかも今後の課題になると考えられる.

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には倫理面への配慮として任意性と同意撤回の自由について口頭および文章にて説明し,承諾を得て実施した.また,本調査研究は法人倫理審査委員会の承認(M001)を得ており,開示すべき利益相反はない.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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