九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: S-03
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セレクション1
片側人工股関節全置換術後1 ヵ月におけるJHEQ の股関節の状態不満足度に影響を及ぼす因子の年齢層別検討
小ヶ倉 悠太村上 淳也平田 大勝江頭 陽介竹田 賢司鷹田 翔悟加藤 優弥吉松 佑記
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抄録

【はじめに】

近年,治療成績の判定において患者立脚型の評価が重要視されている.2011 年に患者立脚型の日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Hip-Disease Evaluation Questionnaire:以下,JHEQ)が作成され,信頼性・妥当性が報告されている.先行研究では,青芝らは人工股関節全置換術後(total hip arthoroplasty:以下,THA)1 ヵ月におけるJHEQ の股関節の状態不満足度( 以下, 股関節の状態不満度) に影響を及ぼす因子は,JHEQ「痛み」であったと報告している.田中らはTHA 術前の変形性股関節症患者での股関節の状態不満足度に影響する因子を年齢層別に検討しており,非高齢者群(64 歳以下)では股関節の機能障害,前期高齢者群(65 ~74 歳)ではJHEQ「動作」,後期高齢者群(75 歳以上)ではJHEQ「痛み」であったと報告しているが,術後1 ヵ月における股関節の状態不満足度に影響を及ぼす因子を年齢層別に検討した報告はない.そこで本研究の目的は,THA 術後1 ヵ月における股関節の状態不満足度に影響を及ぼす因子を年齢層別に検討することである.

【方法】

対象は柳川リハビリテーション病院で2019 年10 月から2021 年9 月まで初めて片側THA を施行した女性75 名とした.除外基準は変形性股関節症以外の診断を受けた患者,明らかな中枢神経疾患や末梢神経障害の既往がある患者,うつ病などの精神疾患の既往がある患者,重篤な合併症やバリアランスによりクリニカルパスを逸脱した患者,認知機能の影響で患者立脚型評価が困難な患者とした.調査対象者75 名のうち,除外基準に当てはまる患者24 名を除外し,51 名(平均年齢66.1 ± 9.4 歳)を分析対象とした.検査項目は術後1 ヵ月でのJHEQ の下位尺度である「痛み」,「動作」,「メンタル」の点数と術後1 ヵ月での股関節の状態不満足度とした.分析対象51 名を高齢者群(65 歳以上の31 名,平均年齢72.7 ± 5.1歳),非高齢者群(65 歳未満の20 名,56.8 ± 5.5 歳)に分け,THA 術後1ヵ月でのJHEQ の各下位尺度の点数と,股関節の状態不満足度(VAS 点数)についてPearson の相関分析を行った.統計解析には,SPSS statistics 22を使用した.有意水準は5%とした.

【結果】

術後1 ヵ月でのJHEQ の各下位尺度と股関節の状態不満度の相関分析では,高齢者群で「痛み」が中等度の相関(r=-0.64,p <0,05),「メンタル」が弱い相関(r =-0.36,p <0,05)が認められ,非高齢者群で「痛み」が強い相関(r=-0.813,p <0,05),「メンタル」が中等度の相関(r=-0.66,p <0,05)が認められた.

【考察】

原田らはTHA 術後3 ヵ月において,股関節の状態不満足度と「痛み」,「メンタル」に負の相関を認めたと報告しており,本研究は術後1 ヵ月後での検討を行い、同様に股関節の状態不満足度と「痛み」,「メンタル」に負の相関を認めた.THA は除痛を目的とした手術であり,術後1 ヵ月の時点で疼痛が残存していることや今後の生活に対する不安により,「痛み」や「メンタル」が影響した可能性が考えられる.また,高齢者群と比較し,非高齢者群で「痛み」,「メンタル」に強い相関関係を認めた.非高齢者群では,勤労者が多く、退院後復職することが多々ある.背景として,非高齢者群は家庭内外での活動量が多いため,疼痛残存や今後の生活への不安が高齢者群よりも強く影響した可能性が考えられる.

今回の結果から,術後1 ヵ月間は,両群共に術側股関節の疼痛に注意しつつ,メンタル面へ配慮しながら理学療法を進めていく必要性が示唆された.特に非高齢者群では,疼痛への注意に加え術後早期から今後の生活に対する不安を聴取し,退院後の生活を考慮した介入を行う必要性があると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に本研究の主旨,目的を十分説明し,同意を得て実施した.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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