主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
運動失調による歩行障害は,歩隔の拡大,歩幅の減少,遊脚期の短縮などが挙げられ,各指標は安定せず変動が大きいとされている.また,歩行の変動性は転倒との関連が強いことも報告されている.しかし,運動失調による歩幅の変動性に関する介入報告は少ない.今回,視床出血を発症し,歩行中の麻痺側下肢接地位置が安定しない症例を担当した.運動失調による歩幅の変動性に対して視覚の代償を用いて歩行練習を行うことが有効と考え,視覚的フィードバック(以下,FB)とトレッドミル歩行練習を併用し良好な結果が得られたため報告する.
【症例紹介および方法】
対象は右視床出血発症後の70歳代男性.介入前の身体所見として,Stroke Impairment Assessment Set は44 点,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia は12 点であった.歩行はプラスチック短下肢装具,T字杖を使用して見守りにて歩行可能であったが,麻痺側下肢の接地位置が安定せず不安定さがみられていた.
介入はウェルウォークWW-1000(以下,WW)のトレッドミル機能および前面のモニターを活用した視覚的FB システムを使用した.前面モニターには足元画面をリアルタイムで映し出し,目標とする接地位置にFB システムのひとつである足型マーカー(以下,足型)を表示した.症例に対して足型を毎回踏むように指示した.介入期間は161 病日後からの2 週間とし,1 回の介入で60m × 3 セット,週7 回実施した.評価は介入時,中間,終了時の3 回実施し,評価項目はトレッドミル歩行中の足型中点から麻痺側足部中点の前後,左右方向の距離の誤差(cm),平地歩行時の歩幅(cm)とした.平地歩行時の歩幅は,麻痺側第一中足骨頭(以下,麻痺側足尖),非麻痺側第五中足骨頭(以下,非麻痺側足尖)に反射マーカーを貼付し,矢状面からビデオカメラで撮影した.トレッドミル中の足型中点から麻痺側足部中点の前後,左右方向の距離の誤差,平地歩行時の歩幅(麻痺側足尖から非麻痺側足尖)をダートフィッシュで解析し,各10 歩行周期分の平均値,標準偏差を求め,変動係数を算出した.
【結果】
各評価結果を,介入時/ 中間/ 終了時の順で表記する.トレッドミル中の足型中点から麻痺側足部中点の誤差(平均値,変動係数)は前後の誤差で(29.7,0.99)/(2.9,0.55)/(1.6,0.43),左右の誤差で(5.5,1.15)/(2.7,0.76)/(2.6,0.61),であった.平地歩行時の歩幅(平均値,変動係数)は(44.2,0.13)/(47.0,0.07)/(45.2,0.04)であった.トレッドミル中の足型中点から足部中点の誤差の平均値,変動係数,平地歩行時の歩幅の変動係数がいずれも,介入後で減少を示した.
【考察】
脳卒中治療ガイドライン2021 では,亜急性期において,バイオフィードバックを含む電気機器を用いた訓練や部分免荷トレッドミル訓練を行うことは妥当であるとされている.今回,WWのトレッドミル機能,前面モニターを活用し,一歩行毎に足型中点と麻痺側足部中点の誤差を視覚的にバイオフィードバックしたことで運動誤差学習が行われ,誤差の減少に至ったと考える.また,トレッドミルにて一定の歩行速度での歩行を繰り返したことで,接地位置が安定し,変動係数の減少に至ったと考える.
視床出血を発症し,歩行中の接地位置が安定しない症例に対して,視覚的FB とトレッドミル歩行練習を併用することで,歩行時の麻痺側下肢接地位置を安定させることが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.また,当法人内倫理委員会による承認を得て実施された(承認番号28).