九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-17
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心拡大がある高齢の大腿骨近位部骨折患者における回復期リハビリテーション病棟入院は骨格筋量指数を改善する
末吉 勇樹佐藤 圭祐千知岩 伸匡末永 正機
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抄録

【はじめに、目的】

心胸郭比(CTR) は、胸部X 線上の胸郭に対する心臓の横幅の占める割合を示すものであり、ある程度の体格の違いを補正して心拡大を評価する方法として以前より日常の臨床で広く用いられ、フラミンガムうっ血性心不全診断基準でも大項目の一つとして重要視されている(Mckee P.A:1971)。CTR が高いことは、心機能障害の重要な予測因子であるとされている(M K Davies: 2004)。一方で、骨格筋の低下は、加齢によりミトコンドリアの機能低下が生じ、筋が脂肪や結合組織に置換され筋力低下を生じるとされている(von Haehling:2015)。以上のことから、高齢かつCTR が高く、心不全の可能性がある患者では、より顕著に骨格筋量の低下が生じる可能性があると考えた。そこで今回、心拡大がある高齢の大腿骨近位部骨折患者の回復期リハビリテーション( リハ) 病棟入院が、骨格筋量指数の変化量に及ぼす影響について調査する。

【方法】

2018 年10 月から2020 年7 月に当院回復期リハ病棟へ入院したCTR が60% 以上ある80 歳以上の大腿骨近位部骨折患者を対象とした単施設後ろ向き観察研究である。調査項目には、年齢、性別、入院時Body Mass Index (BMI)、入院時チャールソン併存疾患指数(CCI)、入院時CTR、当院在院日数、1日平均リハ実施時間とした。入退院時でSMIとFunctional Independence Measure (FIM) を比較した。SMI の測定には、入院時に当院の管理栄養士がIn Body S10 ( 株式会社インボディ・ジャパン社) を使用し測定を行った。除外基準は、診療記録漏れ等によるデータ欠損値がある者は除外とした。統計解析にはEZR を使用し、各項目の入退院時の比較において対応のあるT 検定またはWilcoxon 符号順位検定を行った。有意水準は5% 未満とした。

【結果】

対象者は321 名中78 名が該当した。年齢は88.4 ± 4.9 歳、性別は男性7名(9.0%)、女性71名(91.0%) だった。入院時BMI は22.4 (20.6-25.4) kg/㎡、入院時CCI は2.0 (1.0-3.0)、入院時CTR は63.7 (62.0-66.2)% だった。当院在院日数は64.5 (49.0-85.8) 日、1 日平均リハ実施時間は128.6± 15.9 分だった。SMI は入院時(5.1 ± 0.9 kg/㎡) よりも退院時(5.3 ± 0.9kg/㎡、p =0.005) が有意に高かった。FIM においても入院時(64.5 (54.0-74.0)点) よりも退院時(98.0 (75.3-113.0) 点、p<0.001) が有意に高かった。

【考察】

心拡大がある高齢の大腿骨近位部骨折患者の回復期リハ病棟入院はSMI、FMI が有意に改善した。Kabala らは、CTR が55% 以上ある場合は心不全の可能性があると報告している(Kabala:1987)。本研究の対象者はCTR が60% 以上あり、心不全を呈している可能性があると考える。Zheng らは運動による脳由来神経栄養因子(BDNF) の誘発が、心不全による骨格筋萎縮防止に有効であると報告している(Zheng Zhang:2019)。また、Maren らは、レジスタンストレーニングは高齢者であっても、骨格筋の筋横断面積を増大させる(Maren S. Fragala:1994) と報告している。心拡大がある高齢の大腿骨近位部骨折患者でも回復期リハ病棟入院期間中の運動療法にてBDNF が誘発されたことによってSMI が改善したと考える。

本研究では、FIM も有意に改善していた。才藤らは、訓練量が多い方がリハ終了時のADL や機能が改善されると報告している( 才藤: 2006)。集中的なリハ治療を行う回復期リハ病棟入院は、SMI だけでなく、FIM も向上する可能性があると考える。

【結論】

本研究は、心拡大がある高齢の大腿骨近位部骨折患者における回復期リハ病棟入院がSMI とFIM が有意に改善した。著名な心拡大や高齢の大腿骨近位部骨折患者であっても不要な安静は避け、適切なリスク管理を行いながら積極的な運動療法を提供する必要があると考える。

【倫理的配慮、説明と同意】

当該施設に設置されている倫理委員会の承認を受け、オプトアウトを実施した( 承認番号:22-02)。

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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