主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 128-
【目的】 周術期における理学療法は、術前指導から術後活動範囲の改善、早期退院支援まで重要な役割を担う。術後患者のADL拡大を進める上で、せん妄や早期離床の影響についての報告が認められる。一方で、早期排泄動作の獲得も重要であると考えるが、これらに関する報告や近年着目されている亜症候性せん妄の影響についての報告は少ない。そこで当院の消化器外科術後患者の排泄動作獲得に関連する要因を明らかにする目的で調査を行い、亜症候性せん妄による影響についても認めたので報告する。
【方法】 対象は認知症なく排泄動作含め移動自立し、当院にて2022年4月から2023年4月まで入院・消化器外科手術・理学療法施行した患者。前向き観察研究。除外として、死亡、術後人工呼吸器・合併症・せん妄陽性(先行研究を基にIntensive Care Delirium Screening Checklist以下、ICDSC:4点以上)、理学療法未介入、データ欠損値、排泄動作が改善しなかった患者。
調査項目は、年齢、術式、手術時間、術前Geriatric Nutritional Risk Index(以下、GNRI)、術後離床日、術後一日目疼痛Numerical Rating Scale(以下、NRS)、術後一日目亜症候性せん妄の有無(ICDSC1-3:有・0:無)、ドレン操作含めた術後排泄動作自立(トイレ動作・トイレ移乗FIM≧6)日とした。統計学的方法として、排泄自立日数と各変数との関連性についてSpearmanの相関係数を用いた。目的変数を排泄自立日数、説明変数を各変数とし重回帰分析を実施した。統計学的ソフトはR(4. 3. 1)を用い有意水準5%未満、多重共線性(VIF:1.5未満)に配慮した。
【結果】 対象者は74例(96例中22例除外)。年齢は69.9±12.1歳、術式は開腹40例・腹腔鏡34例、手術時間は214.3±128.7分、GNRIは98.4±13.8、離床日は1.5±0.8日、NRSは6(4-8)、亜症候性せん妄有無は有30例・無44例、排泄自立日は3.4±2.5日であった。排泄自立日と各変数の単変量解析は、GNRI(r=-0.251 p=0.03)、離床日(r=0.453 p<0.001)、NRS(r=0.374 p=0.01)に相関を認めた。重回帰分析では、亜症候性せん妄有無(β=0.26 p=0.02 95%CI:0.21- 2.47)、離床日(β=0.28 p=0.02 95%CI:0.12-1.57)、手術時間(β=0.30 p=0.003 95%CI:0.002-0.010)、術式:開腹・腹腔(β=0.26 p=0.02 95%CI:0.21-2.45)が有意な変数として抽出された(調整済R2=0.27)。
【考察】 年齢・GNRIにおいて、対象者特性は抽出されなかった。先行研究にて早期離床が早期歩行自立に関連することが報告されているように、早期ADL(排泄)拡大に関連する結果となった。離床阻害要因である術式(侵襲程度)の違いと手術時間による影響を認めたことから、手術(疼痛)による影響が関連することが示唆された。疼痛評価NRSは主観的要素を含むため、抽出されなかったと考えられる。せん妄症状においては様々な報告がされているが、亜症候性せん妄状態が抽出されたことから、せん妄の有無だけでなく、亜症候性せん妄状態も排泄自立日数に関連する新たな知見となり、理学療法実施の必要性が示唆された。
【倫理的配慮、利益相反】 本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に則った。個人情報および診療録情報は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、十分に配慮し取り扱った。開示すべき利益相反はない。