主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 130-
【はじめに】 平成26年度診療報酬改定により、回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)において入院時訪問指導加算の算定が可能となり、入院早期から退院後に生活する生活環境の把握が重要視されるようになった。しかし、その後コロナ禍による家屋調査自粛と面会制限のために、退院後の生活環境や入院前の活動状況などの情報収集が困難となっていた。そこで当院では、「家屋環境情報シート」を作成し、退院後の生活環境や入院前の活動状況を、入院日に家族から情報収集を行う取り組みを開始した。本研究の目的は、入院時の取り組みに関するセラピストの意識を調査するとともに、入院時の取り組みが退院支援に及ぼす変化について事例を通して報告する。
【倫理的配慮】 本研究は当院の倫理委員会で承認を得て研究を行った。
【家屋環境情報シートの運用方法】 入院日にセラピストの管理者が家屋環境情報シートを使用し、家族から家屋周囲の状況、玄関、寝室、トイレ、浴室など退院後に生活をされることが予測される家屋環境の状況や入院前の活動状況について聴取を行った。また家族へ家屋環境・周囲の写真の提供依頼も行った。
【対象と方法】 対象は2022年4月~12月までに当院回リハ病棟へ入院時に自宅復帰を目標とし、かつ家屋環境情報シートを使用した計39名とし、写真提供の有無と入院から写真提供までの日数を調査した。また、回リハ病棟に所属するセラピスト20名に対し、家屋環境の情報収集の必要性や家屋環境情報シートの運用による退院支援の変化についてGoogleフォームを使用してアンケート調査を行った。
【結果】 39名中20名の家族より写真提供があり、その提供は入院時から15.8±18.1日で得られた。セラピストのアンケート回答率は80%であり、家屋環境の情報収集の必要性については回答が得られたセラピスト16名全員が必要性を感じ、そのシート運用により14名のスタッフが退院支援に変化があったと回答した。その理由として、「入院早期よりリハゴールを設定しやすい」「介護保険の必要性など多職種と話し合うタイミングが早くなった」「早期より患者と自宅の話がより詳しくできるようになった」などが挙げられた。
【事例紹介】 80歳代男性。診断名はアテローム血栓性脳梗塞。Brunnstrom recovery StageⅤ。妻と二人暮らしであり、趣味は家庭菜園や旅行など活動的。本人のデマンドは、入院前と同様に家庭菜園や車を運転し外出したい。
【経過】 入院日に家屋環境情報シートを使用した情報収集と写真の提供依頼を行い、入院後12日目に写真提供があった。それらの情報と本人のデマンドを元に入院2週目に「家庭菜園の作業の再開や車の運転で妻と外出し、入院前と同様に趣味活動を継続して行えるようになる」というリハゴールの元、各職種が具体的なゴール達成項目とその達成時期を明確にした後、屋外活動を見据えたリハプログラムを実施。入院6週目に家屋調査を実施せず自宅退院し、退院後も趣味活動を継続できている。
【考察】 家屋環境情報シートの運用により、入院時からの情報収集の取り組みと早期から各職種のゴール立案が可能となり、運用開始前よりも自宅退院を想定したリハ提供がしやすくなった。また、コロナ禍での家屋調査の実施を必要最低限に留めつつ、退院後の生活を見据えた退院支援の必要性が検討しやすくなった。今後は間取りや動線の距離なども聴取項目に追加し、より詳細に情報収集を行いたい。