九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題28[ 呼吸・循環・代謝④ ]
重症急性膵炎に対する長期リハビリテーション介入により自宅退院可能となった症例
O-163 呼吸・循環・代謝④
田中 颯人吉田 裕一郎工藤 誠也
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p. 163-

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抄録

【はじめに】 急性膵炎の死亡率は近年低下したという報告があるが、重症膵炎の死亡率は10%以上であり、48時間以上持続する臓器不全がある場合は70%という報告もある。今回、アルコール性重症急性膵炎に伴う敗血症により、身体機能の著しい低下を起こしながらも、長期リハビリテーション(以下、リハビリ)介入により自宅退院まで回復を得られた症例を経験した。様々な状況変化の中での長期リハビリ介入の工夫と考察を加え報告する。

【症例】 50歳代男性、身長175 ㎝、体重83 ㎏、BMI 27.1 ㎏/m2。既往歴:40歳代に膵炎にて入院歴あり。生活歴:独居、飲酒・喫煙あり、就労あり。X-1日、上腹部痛出現。X日、アルコール性急性膵炎の診断にて入院。厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)にて、入院時は予後因子2/9点にて軽症膵炎。輸液、蛋白分解酵素阻害薬、抗菌薬予防投与、鎮痛薬、酸素療法などの保存的治療開始。

【経過】 X+2日、リハビリ開始。発熱、上腹部痛、嘔吐、倦怠感等によりベッドサイド介入から開始し、その後、車椅子離床、平行棒内歩行へと段階的に進めた。X+21日に仮性膵嚢胞を合併、X+31日には横行結腸瘻孔を合併し絶食管理が続いた。X+47日、予後因子3/9点となり重症膵炎判定、腹部正中切開による仮性膵嚢胞に対するドレーン挿入術を施行されHCU管理。X+48日に予後因子5/9点、術後敗血症性ショックにて人工呼吸器管理。X+64日、気管切開。X+78日、端座位練習開始。X+98日、人工呼吸器離脱しリクライニング車椅子離床開始(BI:0点、SPPB:0点、体重:66 ㎏、MNA:4点)。X+110日、腹部症状が軽快し経鼻経管栄養開始し、一般病棟へ転棟。X+115日、歩行練習再開。X+199日、マシンでのレジスタンストレーニングや有酸素運動を開始(BI:5点、SPPB:2点、体重43 ㎏、MNA:2点)。X+218日、自宅退院に向けたADL獲得を目標としたプログラムへと進め、X+234日に自宅退院(BI:85点、SPPB:5点、体重52 ㎏、MNA:7点)。

【考察】 本症例は長期間に及ぶ炎症期、人工呼吸器管理、絶食に伴う低栄養等により著しい身体機能の低下を来し、すべての基本動作に全介助が必要な状態(BI:0点)となった。人工呼吸器管理当初は血圧低下が著しく、ベッド上関節可動域練習より開始し、次第に下側肺障害・換気血流不均等是正を目的としたプログラムへと移行した。循環動態が落ち着いた段階で端座位練習を開始し、ベッドサイドでの立位練習、リクライニング車椅子離床と進めたが、起立・移乗動作は2人介助を要する状況であった。長期臥床及び絶食管理で低栄養の中、運動負荷量設定には難渋したが、介助運動から徒手抵抗運動、マシンを使用してのレジスタンストレーニングや有酸素運動へと全身状態を見極めながら、運動負荷量を漸増することで身体機能改善に繋がったと考える。また、全身状態の改善と増悪を繰り返しながら経過し相当な時間を要する中で、精神面の支援も必要とした。週単位、月単位での短期目標を患者と共有しながら、モチベーションの維持にも努めた。退院前にはIADLを含めたプログラムも取り入れることでADLの拡大へと繋がり、自宅退院に至ったと考える。しかし、就労をしていた入院前の身体機能と比較すると著明に低下しており、復職を最終目標とすると今後も継続的なリハビリが必要である。重症急性膵炎の治療では長期入院を伴うことが多い。その中で廃用症候群に加えて、炎症や低栄養による骨格筋量の減少、身体機能の低下が引き起こされるため、多面的な視点で運動負荷量に注意しながらリハビリ介入する必要があると考える。

【倫理的配慮】 対象者には、書面及び口頭にて発表の目的と内容を説明し、同意の署名を得た。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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