主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 186-
【はじめに】 サルコペニアは、ADL低下、フレイルや転倒・骨折等との関連性から、要介護状態に陥る一因と考えられる。訪問リハビリテーション(訪問リハ)の対象者の多くは要介護高齢者であり、サルコペニアをきたしやすいと考えられ、その対策に向けた介入が必要である。その中で、運動療法は治療の一つに挙げられ、継続する事が重要とされている。今回、AWGS2019の診断基準に基づき、サルコペニアの可能性のある高齢者に対して、訪問リハにおいて運動療法を中心とした介入を継続的に行い、活動性の向上につながった症例を経験したので報告する。
【症例紹介】 90歳代女性、要支援2。診断名は第11・12胸椎圧迫骨折であり、自宅内転倒し、当院入院となる。46病日に自宅近隣の娘夫婦宅に退院。100病日に自宅に戻られ、107病日より訪問リハ開始となる。生活歴は、持ち家に1人暮らしであり、娘が買い物や通院の支援をされていた。
【理学療法評価】 身長は150.0 ㎝、体重は37.0 ㎏、BMIは16.4 ㎏/m2。下腿周囲長は右27.0 ㎝/左27.0 ㎝。SARC-Fは7点であった。身体機能評価は、握力は右13.5 ㎏/左11.7 ㎏、5CSは19.7秒、TUGは16.6秒。腰痛はNRSにて2/10。ADLはBIにて80点、IADLはFAIにて13点。日中は寝て過ごされる事が多かった。
【経過・結果】 訪問リハは40分/回、週2回で行った。運動療法は、自重を用いてスクワットやヒールレイズ等を実施した。介入当初は腰痛悪化への不安もあり、腰痛のない動作方法の指導や安全面を考慮して手すりに掴まり実施し、自覚的運動強度をBorgスケールが11程度で行った。介入1ヵ月「脚の力がついてきた」と運動の効果が聞かれた。Borgスケールが13となる強度で、回数やセット数を漸増的に増やしていった。また、持久性トレーニングに自宅内歩行練習を選択し、約50m程度から開始し徐々に距離の延長を図った。介入2ヵ月握力は右13.8 ㎏/左12.2 ㎏、5CSは14.7秒、TUGは14.6秒。「トイレまで歩くのが楽になった」と生活動作への変化が聞かれた。運動療法の一部を自主トレーニングとして指導を行った。介入3ヵ月「近所の公園まで散歩ができるようになりたい」との希望から歩行練習を屋外へ移行した。介入4ヵ月体重は39.0 ㎏、BMIは17.3 ㎏/m2。下腿周囲長は右29.0 ㎝/左28.5 ㎝。SARC-Fは4点。握力は右13.4 ㎏/左12.8 ㎏、5CSは10.6秒、TUGは12.7秒と改善した。BIは90点、FAIは17点と向上した。自主トレーニングも定着でき、自宅から約300mの公園まで散歩も可能となった。
【考察】 AWGS2019への改訂に伴い、訪問リハにおいてもサルコペニアの把握が容易となった。その中で、適切な個別プログラムを早期に提供することが重要とされている。本症例は腰痛への不安や90歳代と高齢であり、高負荷での運動実施は困難であると思われた。低負荷では血圧上昇や痛み等なく安全に実施できるとされ、痛みや疲労は在宅での運動実施の阻害要因である事から、痛みの程度に合わせた運動指導や運動強度を調整する事で、無理なく運動に取り組む事が出来たと考える。その中で、運動を継続する理由として運動機能向上の実感が挙げられ、定期的に身体機能を評価する事で、運動に対する結果の可視化ができた。さらに、運動実施への促進要因として効果への気づきが挙げられ、本症例ではトイレまでの移動といった実際の生活動作の改善が出来た事で、モチベーション向上にもつながったと考えられ、自主トレーニングや散歩といった主体的にも運動に取り組めた事が、活動性の向上が図れた要因であると考える。
【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、本人には説明し、同意を得ている。