九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題13[ 測定・評価① ]
徒手筋力計で膝伸展筋力を評価するための予備的研究 ~モーメントアーム補正の有無による比較~
O-071 測定・評価①
吉田 禄彦釜﨑 大志郎田中 真一八谷 瑞紀久保 温子大川 裕行坂本 飛鳥藤原 和彦井手 翔太郎大田尾 浩
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p. 71-

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抄録

【はじめに】 臨床では、簡便に筋力を評価できるハンドヘルドダイナモメータ(HHD)で膝伸展筋力を測定することが多い。先行研究では、HHDで筋力を測定し、モーメントアーム(下腿長)で補正した値を膝伸展力としていることがある。一方、補正をせずに測定値を代表値としている報告もある。だが、どちらの値がより身体機能を反映するのかは一定の見解を得られていない。そこで本研究は、HHDで測定した膝伸展筋力値をモーメントアームによる補正の有無別に身体機能との関連を検討し、その程度を比較することとした。本研究は、より正確な膝伸展筋力の評価方法を示し、今後の研究の基礎的な結果を提供できると考える。

【方法】 対象は、地域で実施した体力測定会への参加者とした。除外基準は膝に痛みを有した者、評価項目に欠損を認めた者とした。基本情報として、性別、年齢を記録し、身長、体重、body mass index(BMI)、skeletal mass muscle(SMM)、skeletal mass index(SMI)、骨密度を測定した。身体機能は、膝伸展筋力、握力、開眼片脚立ち時間、通常歩行速度、最大歩行速度、30-second chair stand test(CS-30)、timed up and go test(TUG)を測定した。なお、膝伸展筋力はHHDを用い、付属のベルトで固定し、センサーパッドを下腿遠位部に当て測定した。その他の評価としてmini-mental state examination(MMSE)、JST-index of competence(JST-IC)を評価した。統計処理は、モーメントアームによる補正の有無別に各測定項目との関連をPearsonの相関分析で検討した。次に、モーメントアームの補正の有無別に得られた相関係数を用いて差の検定を行った。

【結果】 分析対象者は、体力測定会への参加者130名(64±18歳、女性76%)であった。相関分析の結果、膝伸展筋力は補正の有無に関わらず、SMI(補正有:r=0.51, p<0.001、補正無:r=0.55, p<0.001)および握力(補正有:r=0.59, p<0.001、補正無:r=0.64, p<0.001)と中等度以上の有意な相関が認められた。また、SMM(r=0.48, p<0.001)とTUG(r=0.45, p<0.001)は補正ありのみ中等度以上の有意な相関が認められた。一方、開眼片脚立ち時間、CS-30、通常歩行速度、最大歩行速度、MMSE, JST-ICとは0.4以上の相関はなかった。次に、補正の有無別に分けて相関係数の差の検定を行った。その結果、2群間で有意差はなかった。

【考察】 握力およびSMIは筋力を評価する代表的な指標である。本研究では、補正の有無に関わらず中等度以上の有意な相関を認め、膝伸展筋力は筋力の評価としての基準関連妥当性を有する結果が示された。一方で、SMMおよびTUGとは補正ありのみと中等度以上の有意な相関が認められた。モーメントアームによって補正した膝伸展筋力の方が、四肢の骨格筋量や動的バランスと相関がある可能性が示唆された。しかしながら、補正の有無別に相関係数の差の検定を行った結果、有意な差はなかった。これらのことから、HHDで測定した膝伸展筋力は、モーメントアームの影響を受けづらいことが明らかになった。したがって、補正の有無に関わらず膝伸展筋力を評価できることが示された。

【説明と同意、および倫理的配慮】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり、参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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