九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題15[ 呼吸・循環・代謝② ]
急性期病院における重症薬剤性間質性肺炎患者に対するアドバンス・ケア・プランニングの実施 ~自宅退院に向けての取り組み~
O-085 呼吸・循環・代謝②
原口 玲未黒岩 剛成山元 竜二高野 雅弘岡元 昌樹
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p. 85-

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抄録

【はじめに】 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは将来の意思決定の低下に備えて、今後の治療・療養について患者・家族とあらかじめ話し合うプロセスであり、早期からの反復した介入が望ましい。しかし急性期病院では救命に焦点をあてた医療の提供が主となる場合が多い。さらに、重症患者ではACPのタイミングが残されていないことや、理学療法士の参加が困難なことが多い。今回、胃がんに対する外来化学療法中に重症薬剤性間質性肺炎を発症した患者を担当した。急激な状況変化で患者、家族ともに不安を抱えていたため、PT介入後早期よりACPを実施し、自宅退院を実現できた取り組みを報告する。

【現病歴】 X-1年2月胃がんと診断され、空腸バイパス術施行。4月より化学療法開始。X年11月末に発熱、咳嗽、炎症反応高値にて精査し薬剤性間質性肺炎の診断後、入院となった。

【症例紹介】 60歳代、男性、妻と子2人の4人暮らし。職業は警備員。

【初回評価】 X-P、CT:両肺すりガラス様陰影、びまん性に肺底部、胸膜直下優位にすりガラス陰影あり。聴診:両肺Fine crackles、酸素量:リザーバーマスク6L/分より開始したが、第6病日よりネーザルハイフロー(NHF)40L/分90%、初回The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(NRADL):8/100点、修正MRCスケール:3。

【理学療法】 第7~18病日、救命救急センターで早期離床チームが介入。血液ガス:pO2:48、pCO2:30、HCO3-:20.9、KL6:779。ベッド上で更衣動作でSpO280%前後の急激な低下あり、ベッド上筋力トレーニングやEMSを実施。本人、家族とのICにてベスト・サポーティブ・ケア(BSC)の方針となった。第19病日、一般病棟転棟後にPT担当し介入開始。入院~退院までの取り組みを4つの場面に分け理学療法士の視点で援助した。

1. 廃用症候群の予防として病棟での活動量向上を目的に、NHF管理下で安全な移動方法をNsと共有し順次ADL拡大を支援した。そのために、24時間モニタリングや毎日の日記(酸素量や動作時のSpO2数値、歩数など)を患者へ記載するように依頼した。

2. 早期よりカンファレンスにてステロイドやエンドキサンパルスなどの治療方針や画像・血液検査の変化などを情報共有を繰り返した。また、病状に合わせてリハビリ評価を頻回に行った。評価結果を患者にフィードバッグし多職種にも情報共有したことで、第33病日、NHF離脱し転院の方針から患者の希望である自宅への退院が現実的となり、チームで自宅に向けて支援を開始した。リハビリは酸素量の調整や運動内容を自宅に即した内容に変更した。

3. 第34病日、NRADL:60/100点、6分間歩行試験(6MWT):酸素吸入:2L/分、歩行距離315m、最低SpO287%、修正Borgスケール6と改善を認めたが、家族より在宅酸素療法(HOT)への抵抗や介護の不安の訴えがあった。そのため第42病日、家族が安心してサポートできるよう、ICを行い、また面会の度情報提供した。

4. 第44病日、自宅退院。その後実際の生活での問題点、HOTの遠隔モニタリング状況(HOT見守り番web)より運動のアドバイスを行った。

【最終評価】 修正MRCスケール:0、6MWT;酸素吸入:2L/分(同調モード)、歩行距離405m、最低SpO289%、修正Borgスケール4。

【考察】 薬剤性間質性肺炎の急性増悪にてACPを考える機会を得た。予後予測が困難である事、時間や人的資源が不足し情報の共有化や体制がまだ不十分なことから、サポートの難しさを実感した。患者や家族と身近に接する療法士は患者の思いのかけらを拾い、意見交換しやすい環境作り、コミュニケーション力が必要と感じた。また療法士のACP参加は急性期病院から自宅退院の実現において有効な支援となり得る。

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