主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 89-
【目的】 訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)においては利用者の在宅生活を支えるために生活機能に焦点を当て多職種連携が必要であるとされている。利用者の中には、閉じこもり傾向の方もおり生活が狭小化しているケースも少なくない。閉じこもりをもたらす要因としては、身体的、心理的、社会・環境の3要因が挙げられるといわれている。今回、閉じこもり傾向であった利用者が在宅から施設へ生活環境が変わったことにより訪問リハビリのアプローチ方法の変更や多職種連携を行ったことで他者との交流も増え、デイサービスの利用までに至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】 頚椎症性脊椎症の80歳代女性。既往歴に両変形性股関節症、頚部・腰部脊柱管狭窄症がある。元々アパートの2階に独居で生活されており、食事の準備や入浴などは近所に住む家族(娘)の支援を受けていた。屋内は歩行器歩行自立レベルであり、ADLはB. I:80点、FIM(運動:66点/認知:33点)。性格は、こだわりが強く家族以外との交流も望まれなかった。外出は通院時のみで閉じこもり傾向にあった。
【経過】
第1期(訪問開始):Ⅹ年10月に担当としての訪問リハビリが開始となった。在宅環境は、物が多くスペースの確保が困難で段差も多かった。まずは、生活動線上での限られた範囲での安全な移動の獲得を合意目標とした。しかし、Y年1月に夜間トイレに行こうとした際に転倒し入院となった。この頃から施設の話も出ていたが、本人は在宅生活を強く希望されたため内服管理や入浴介助など娘様の介護負担軽減を目的に訪問看護、訪問介護の導入を行い3月に在宅復帰となった。在宅での動作確認や環境調整など行ったが、住み慣れた環境という事もあり本人のこだわりも強く動作指導を行うもなかなか定着が図れず、ベッドサイドやトイレ周囲での転倒が多くみられていた。その後も転倒を繰り返され4月に再度入院となった。家族の介護負担感の増加により6月に施設入居となった。
第2期(施設入居後):入居後しばらくは新しい環境や施設スタッフに慣れず、自室に閉じこもることがあった。しかし、入居前より介入していた訪問リハビリは受け入れがよく、本人の想いや要望を聴取することができ、訪問直後に施設スタッフへ報告し早期に解決方法を検討することができた。また、検討した内容をケアマネージャーや福祉用具業者へ情報共有することで改善を図った。生活環境が変わったことで食堂まで歩行することや通所リハビリに行くことなど自室から外に出るきっかけも作れるようになり、それが合意目標となった。
第3期(活動):自室内は歩行器歩行自立、訓練中は連続10m程度の歩行器歩行まで可能、自室外は車椅子介助で移動している。ADLはB. I:70点、FIM(運動:48点/認知:31点)、転倒はみられていない。現在は、施設の環境やスタッフにも慣れ食事は自室から食堂へ車椅子介助にて移動し他の入居者と一緒に摂取するようになった。Z年1月よりデイサービスの利用も開始となった。
【考察】 本症例は他者との交流がなく閉じこもり傾向であり、在宅での度重なる転倒や新しい環境への受け入れに時間を要し難渋した。新しい環境へ移行し、訪問リハビリで本人や多職種と関わることにより食堂での食事や通所リハビリに行くなど閉じこもりが改善された。今回、生活環境が在宅から施設へ変更となると一見ネガティブな印象を受けるが、生活環境の変更により外出を視野に入れた目標設定の立案や迅速に多職種連携を図ることができ、閉じこもりの改善が図れたと考えられる。