九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O3-1
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セッション口述3 基礎
骨格筋電気刺激はAKT/PGC-1α/FoxO pathwayを介して廃用性筋萎縮の進行を抑制する
高橋 あゆみ三宅 純平石木 雄大沖田 星馬瀬口 千晶本田 祐一郎沖田 実
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抄録

【目的】廃用性筋萎縮の進行にはAtrogin-1やmuscle ring-finger protein (MuRF)-1といった筋特異的ユビキチンリガーゼの発現亢進を契機とした筋構成タンパク質の分解亢進が強く影響し,このメカニズムの一端にはprotein kinase B (AKT)の脱リン酸化によるforkhead box O (FoxO)の核内発現の増加とperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α (PGC-1α)の発現低下によるFoxOの転写活性の亢進が関与するといわれている.一方,骨格筋電気刺激 (EMS)による筋収縮運動は廃用性筋萎縮の進行抑制に有効とされるが,上記の分子動態への影響は明らかにされておらず,その効果的な刺激条件も未だ不明である.そこで,本研究では実験モデルラットを用いてこれらの点を検討した. 【方法】実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット39匹を用い,1)無処置の対照群 (n=10),2)両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する不動群 (n=9),3)不動の過程でEMSによる筋収縮運動を1:3の刺激サイクルで20分間行う低収縮頻度群 (LF群,n=9),同様に4)1:1の刺激サイクルで15分間行う高収縮頻度群 (HF群,n=11)の4群に振り分けた.なお,LF群とHF群には大腿近位部および下腿遠位部にベルト電極を装着し,刺激周波数を50Hz,刺激強度を4.7mAに設定し,週6日の頻度で延べ2週間,電気刺激による筋収縮運動を負荷した.実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取し,右側試料から作製した凍結横断切片はタイプⅠ・Ⅱ線維の筋線維横断面積の計測に供した.また,左側試料はAtrogin-1やMuRF-1,PGC-1αのmRNA発現量,PGC-1αや総FoxO,リン酸化FoxO,総AKT,リン酸化AKTのタンパク質発現量の定量化に供した. 【結果】タイプⅠ・Ⅱ線維の筋線維横断面積はいずれも不動群やLF群,HF群が対照群より有意に低値を示したが,タイプⅠ線維のみHF群が不動群やLF群より有意に高値を示した.また,Atrogin-1やMuRF-1のmRNA発現量はいずれも不動群やLF群,HF群が対照群より有意に高値を示したが HF群は不動群より有意に低値を示した.さらに,PGC-1αのmRNA発現量ならびにタンパク質発現量はいずれも不動群やLF群が対照群より有意に低値を示したが,HF群は対照群との有意差を認めなかった.加えて,リン酸化FoxOに対する総FoxOの比率は不動群が対照群より有意に高値を示し,HF群は不動群より有意に低値を示した.そして,総FoxOに対するリン酸化FoxOの比率および総AKTに対するリン酸化AKTの比率はいずれも不動群が対照群より有意に低値を示し,HF群は不動群より有意に高値を示した. 【考察】本研究ではHF群にのみAKTのリン酸化を介したFoxOの核内発現の抑制とPGC-1αの発現を介したFoxOの転写活性の抑制が認められた.そして,これらの変化がAtrogin-1やMuRF-1の発現抑制につながり,タイプⅠ線維の筋線維萎縮の進行を抑制したと推察される. 【まとめ】EMSによる筋収縮運動は廃用性筋萎縮の進行抑制に効果的であり,そのメカニズムにはAKT/PGC-1α/FoxO pathwayの動態が関与していることが明らかとなった,そして,この効果には収縮頻度が影響をおよぼすことから,廃用性筋萎縮に対するEMSの至適条件の一つとして留意すべきであることが示唆された. 【倫理的配慮】本実験は所属元の動物実験委員会で承認 (承認番号:1903281524)を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じ,既定の動物実験施設にて実施した.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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