主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 近年、人工股関節全置換術(以下、THA)において術式の改良やX線所見での短期・中期成績から早期荷重が容認されるとともに、術後リハビリテーションに関して様々な研究がなされているが、術後疼痛に加えて股関節伸展角度の減少や股関節外転筋力低下が残存しやすく、理学療法介入の必要性が報告されている。今回、THA施行後、術部周囲の疼痛と股関節外転筋力の低下を呈した症例1名に対して、3次元動作解析評価と筋電図評価を基に理学療法を実施した結果、歩行能力が改善したため、股関節伸展角度と外転筋力が歩行能力に与える影響について報告する。 【症例紹介】 症例は60歳代の女性。右変形性股関節症を呈しており、除痛や歩行能力の再獲得を目的に前側方アプローチによる右THAを施行。術後10日目に当院回復期病棟に入棟し、53日間理学療法を実施した。測定は術後4週目(A期)と術後8週目(B期)とし、測定項目は術周囲の疼痛(NRS)、関節可動域、股関節外転筋力、歩行解析とした。股関節外転筋力はμ-TAS(アニマ株式会社)、歩行解析は3次元動作解析装置(VICON社)と床反力計(AMTI社)、歩行中の中殿筋の筋電位をTS-MYO(TS株式会社)を用いて計測した。分析項目は、疼痛、股関節可動域、外転筋力、歩行速度と歩幅、股関節角度・モーメント、重心動揺幅、中殿筋活動電位 (健側最大随意収縮の値で除した%MVC)をA期とB期で比較した。 【経過】 A期では右立脚期にて体幹・骨盤動揺が顕著に出現しており、跛行を抑制する手段として屋内外を移動する際は両側ノルディックポール杖を使用、疼痛NRS3/10、股関節伸展可動域は-5°、股関節外転筋力30N、歩行速度5.9m/sec、術側歩幅43.2cm、健側歩幅39.0cm、立脚期股関節伸展角度最大値-4.4°、LR股関節外転モーメント0.49Nm/kg、TST股関節屈曲モーメント0.27Nm/kg、重心動揺幅7.9cm、中殿筋活動電位55.4%であった。疼痛が残存しているため股関節伸展可動性の改善には自動介助運動/他動運動を愛護的に行い、筋力増強トレーニングも段階的に負荷量を増大させた。疼痛が軽減した時期からはCKCでの高負荷の介入も実施し、中殿筋の求心性収縮を強調したトレーニングや股関節伸展角度を増加させたステップ課題の提示を行った。B期では疼痛NRS0/10、股関節伸展可動域10°、股関節外転筋力151N、歩行速度1.09m/sec、術側歩幅56.7cm、健側歩幅57.0cm、術側の立脚期股関節伸展角度最大値4.7°、LR股関節外転モーメント0.67Nm/kg、TST股関節屈曲モーメント0.70Nm/kg、重心動揺幅5.9cm、中殿筋活動電位62.3%となり、右立脚期での体幹・骨盤動揺は改善を示したため屋内は独歩自立。しかしながら、長距離歩行では跛行の増大を認めていたため、屋外は片測ノルディックポール杖にて移動。 【考察】 A期では術部周囲の疼痛が残存しており、外転筋力の低下に伴う歩行時の股関節外転モーメントが低下して重心の側方動揺増加、術部周囲の防御性収縮による股関節可動性低下と歩行時の伸展角度低下が顕著であった。疼痛による防御性収縮が生じている状態で術部周囲に負荷を加えることで術中の切離組織の再癒着、軟部組織の伸長性低下を招き、可動域制限や筋力低下が遷延化すると報告されているため、本症例では疼痛の増悪に配慮しつつ、段階的な可動域・筋力の改善を促す介入を行った。結果として疼痛、股関節伸展可動域、股関節外転筋力の改善、歩行場面においても股関節外転モーメント、中殿筋の筋活動が改善し、立脚期の股関節伸展の増大と中殿筋による股関節安定化が歩行能力の向上に繋がり、独歩自立の獲得に至ったと推測される。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき患者に発表の趣旨を説明し同意を得た。また、患者の個人情報を匿名加工し、特定されないよう配慮を