主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 右大腿骨転子部骨折の術後、左橋梗塞発症により術後の筋力低下、latero pulsion(LP)、右片麻痺を呈した症例を担当した。 装具療法を併用した立位、歩行練習を実施し、立位保持が可能となるも、移乗動作や歩行時は、LPが残存した。過去の報告(工藤,2023)を基に前庭リハビリテーションの一つである前庭動眼反射を反復する眼球運動練習(GSE)を、通常の理学療法に併せて実施し、移乗動作や歩行、ADL能力の向上を認めた為報告する。 【症例紹介】 症例は80歳代の女性。既往歴は認知症。入院前ADLは独歩にて概ね自立。診断名は右大腿骨転子部骨折。受傷日に骨接合術施行。術後4病日目に左橋梗塞を発症。33病日目、当院回復期リハ病棟へ入院。 理学療法評価は、MMSE14点。眼球運動障害は認めず。FMA右上肢8点、右下肢15点、感覚は右上下肢軽度鈍麻、MMT大臀筋1/4。Burk latero pulsion scale (BLS)9点。寝返りは見守り、起き上がりは最大介助、座位保持は中〜最大介助、起立、立位保持、移乗動作は最大介助。歩行は右下肢に膝装具、AFOを装着し、平行棒内歩行が最大介助。BBS2点。FIM38点。 【経過及び結果】 33病日目より132病日目まで、装具療法を併用した立位・歩行練習を実施し、FMA右上肢14点、右下肢21点。MMT大臀筋3/4。BLS3点。寝返りは自立、起き上がりは軽介助、座位保持、起立、立位保持が見守り、移乗動作は軽介助。歩行は4点杖にて装具を使用せず中介助20m。BBS16点。FIM52点。133病日目から175病日目まで、通常の理学療法と併せてGSEを開始した。方法は、眼球、頭部のみの運動から始め、最終的に頭部と対象物を逆方向に動かした。最終時の133病日目以降の変化点は、BLS2点。起き上りが見守り。移乗動作は物的支持下にて見守り。歩行は4点杖にて装具を使用せず、軽〜中介助20m。BBS21点。FIM55点となった。176病日目、施設入所の為退院となった。 【考察】 LPに対して、体性感覚を用いた介入が推奨されているが、その具体的な方法は明言されていない。また、早期に改善するLP例は、運動麻痺や筋力低下を認めないことが多く、低下している前庭機能を、視覚や体性感覚で代償可能な為、早期から歩行が可能になるとされている。本症例は術後の筋力低下に加えて、術後発症の脳梗塞による運動麻痺、LPにより立位保持が困難となっていた。そこで、33病日目より、装具療法を併用した立位・歩行練習を実施し、BLSは3点、BBSは16点、立位保持が見守りで可能となった。 立位保持は見守りとなったが、移乗動作や歩行時にLPの残存を認めた為、133病日目よりGSEを開始した。GSEは前庭機能障害に対して行うリハビリテーション治療の一つであり、めまいや動的バランス、LPの改善が報告されている。 GSE実施後、BLSは2点、移乗動作は見守り、歩行は4点杖にて軽〜中介助20m、BBSは21点へ改善を認めた。これらは、前庭機能が賦活され、体性感覚や視覚との統合が促進したことにより、動的バランスが向上した為と考える。 今回、橋梗塞による前庭脊髄路、ascending graviceptive pathwayなどの損傷、骨折術後による筋力低下や、運動麻痺と多様な病態が、症例の前庭感覚と視覚、体性感覚の統合を阻害し、LPの改善が遷延化し、歩行能力の向上に難渋したと推察する。 【倫理的配慮】本人に同意を得た上で、当法人の研究倫理審査委員会の承認を得た。 (学24-0407)