九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O19-1
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セッションロ述19 骨関節・脊髄6
肩関節周囲炎患者の上肢機能に対する運動恐怖の影響は身体知覚異常によって媒介される
松本 伸一山下 裕長谷川 隆史西 啓太森内 剛史暢 暁倩野口 薫中尾 雄一宮永 香那古川 敬三東 登志夫
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抄録

【はじめに】 肩関節周囲炎(以下,AC)患者において、痛みに関連した認知心理的因子が上肢機能に影響することが明らかにされている。加えて近年では、肩関節疾患における身体知覚異常が能力障害や認知心理的因子と関連していることが報告されている。一方でACにおける認知心理的因子と身体知覚異常について、どのようなメカニズムで上肢機能に影響するかを明らかにした報告はない。そこで本研究の目的は,AC患者の上肢に対する疼痛関連の認知心理的因子と身体知覚異常の関連について、媒介分析を用いてそのメカニズムを検討することである. 【方法】 2022年2月~2024年4月に長崎・佐賀の整形外科外来2施設でACの診断を受けた57名(男性21名/女性36名,年齢60.0±9.8歳)を対象とした.評価項目は上肢機能の評価を短縮版上肢障害評価表(以下,QDASH),安静時・動作時の疼痛強度をVisual Analog Scale(以下,安静時痛VAS・動作時痛VAS),破局的思考をPain Catastrophizing Scale疼痛下での自己効力感をPain Self-Efficacy Questionnaire(以下,PSEQ),運動恐怖観念を短縮版Tampa Scale Kinesiophobia(以下,TSK-11),肩周囲の身体知覚異常をFrementle Shoulder Awareness Questionnaire(以下,FreSHAQ)を用いて評価した. 統計学的解析は,統計ソフトHADを使用し,従属変数をQDASH,独立変数をPCS,PSEQ,TSK-11,媒介変数をFreSHAQとしたブートストラップ法(標本サイズ10000)による媒介分析を行った.有意水準5%未満,及び95%CIbsにより統計学的有意差を判断した. 【結果】 測定の結果,安静時痛VAS: 8.9±13.7,動作時痛VAS: 52.5±27.3,QDASH:28.4±15.4点,PCS:20.0±11.3点,PSEQ:37.3±11.2点,TSK-11:21.1±5.3点,FreSHAQ:8.7±6.3点となった.媒介分析の結果,疼痛関連の認知心理的因子とQDASHにおける総合効果は,PCS(β=.65; p<0.01),PSEQ (β=-.57; p<0.01),TSK-11 (β=.46; p<0.01)となった.直接効果はPCS (β=.56; p<0.01),PSEQ (β=-.46; p<0.01),TSK-11(β=.34; p<0.01)となった.また,FreSHAQを媒介変数とした間接効果はPCS(β=.09; 95%CIbs:-0.002 ,0.30 ),PSEQ(β=-.11;95%CIbs; -0.34, 0.003),TSK-11(β=.12;95%CIbs; 0.070, 0.799)となり,TSK-11でのみ有意な部分媒介を認めた. 【考察】 AC患者の上肢機能へ対して疼痛関連の認知心理的因子は全ての項目で有意な直接効果がみられ,運動恐怖のみが身体知覚異常によって部分的に有意な媒介効果を認めた.AC患者の上肢機能へ対する運動恐怖の影響は身体知覚異常の存在に影響を受けることが示唆され,恐怖感を抱える症例へ対して身体知覚異常の存在を考慮した介入を検討する必要性が示唆された.本研究の対象群では安静時痛が低く,動作時痛が強い傾向がみられた.今後はより多くのサンプルサイズでサブグループ化した解析が必要である. 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮を行い,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学系倫理委員会にて承認を受け(許可番号: 23011203),対象となる患者に口頭,および書面にて同意を得て行った.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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