主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】近年,フレイル予防の観点から社会参加が重要視されているが,坂道や階段といった環境要因により外出を阻害されることがある。藤本らは斜面地に住む者では生活必需外出,社会参加外出ともに減少することを報告している。日本は斜面地が多いという特徴を有しており,特に長崎市の斜面市街地は全市街地面積の43%を占めている。身体機能の維持を図る上で外出は重要な要素であり,外出が身体機能に与える影響を検討するには地形条件も考慮する必要がある。地形条件を検討する上で,傾斜を指標とした報告が散見されるが,算出方法が繁雑である。しかし,標高は国土地理院の地理院地図 (電子国土WEB)を用いれば簡易に調べることができる。そこで今回,標高が身体機能に及ぼす影響について,外出状況も加味して検討することとした。 【対象】 対象はA市の高齢者サロンで行った体力測定に参加し,アンケートへの回答を得た84名である。男性14名,女性70名で平均年齢は77.9±6.1歳である。 【方法】 身体機能評価は,握力,片脚立位保持時間 (以下,片脚立位),5回立ち上がりテスト (以下,SS-5),Timed Up and Goテスト (以下,TUG)の4項目とした。4項目との2回ずつ測定し,最大値 (SS-5,TUGは最小値)を採用した。社会的因子に関するアンケートでは,居住地の住所,1週間あたりの外出頻度,外出目的,入院歴を聴取した。住所,国土地理院の標高マップを用いて居住地の標高は算出した。統計解析は外出頻度を従属変数,標高を独立変数として単回帰分析を行い,地形条件が外出に及ぼす影響を検討した。また,各身体機能評価 (握力,片脚立位,SS-5,TUG)を従属変数,年齢,居住地の標高,外出頻度を独立変数とした重回帰分析を行い,社会的因子が身体機能に及ぼす影響を検討した。統計解析ソフトはSPSS version22.0を使用し,有意水準は5%とした。 【結果】 標高が外出頻度に与える影響について,単回帰分析を行ったと ころ有意差は認められなかった (P=0.80)。次に外出頻度,年齢, 居住地の標高を独立変数,各身体機能評価を従属変数とした重 回帰分析を行った。握力を従属変数とした場合はP=0.299,片 脚立位はP=0.091,SS-5はP=0.061,TUGはP<0.05で,TUGに おいて有意差を認めた。標準化係数は年齢:0.252,標高: -0.148,外出頻度:-0.173であった。 【考察】 重回帰分析の結果,年齢,標高,外出頻度はTUGに影響を及ぼしていることが明らかとなった。しかし,標準化係数は年齢が最も高く,今回の回帰モデルからTUGへの影響として「加齢による身体機能の低下」が大きいと考えられた。また,単回帰分析の結果,標高が外出頻度に影響しておらず,先行研究とは異なる結果が得られた。そこで,外出手段について追加検討を行ったところ,対象者の約7割が外出時に車もしくはバイクを使用していた。居住地の標高から,外出時に歩行量が増加すると予測されていたが,実際の歩行量は少なく地形条件が身体機能に与える影響を反映できていないと考えられた。A市の一部では,「歩こう会」という活動も広がっており,歩行機会の獲得を図る上で有効と思われる。フレイル予防の観点から外出の重要性は周知の事となりつつあるが,外出促進を図る上で外出手段にも着目することが必要であると考えられた。 【倫理的配慮】本研究は医療法人和仁会和仁会病院の倫理委員会にて承認を受け,実施した (承認番号20230801)。なお全例,研究参加への同意書に署名を得ている。