九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: CS2-3
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セッション症例検討2 運動器陣害系
頸椎後縦靭帯骨化症を有した通所リハビリ利用者への移乗動作自立の獲得に向けて
 ―体幹失調に着目して―
松本 浩輝松竹 陽平濱野 秀太一ノ瀬 晴也若菜 理貞松 篤
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キーワード: 体幹失調, 側方動揺, 移乗
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抄録

【目的】後縦靭帯骨化症(以下;OPLL)とは、脊椎の後面を走行する後縦靭帯の骨化により、脊髄を圧迫することで脊髄症状が出現する原因不明の疾病である。圧迫性頚髄症症状では手足のしびれをはじめとして、巧緻運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害を呈する。さらには、体幹失調が出現する場合もある。今回、病状安定後も体幹失調が残存し、自宅生活範囲の狭小化により車椅子生活を強いられた症例を経験した。体幹筋の筋力訓練、下肢伸展筋・足底からの内在的フィードバック、移乗の反復練習を継続したことにより、体幹失調による側方動揺が軽減し、移乗動作が向上できたため報告する。 【症例紹介】74歳の男性。BMI:25.9㎏/㎡。10年前にOPLLを(C3~7 分節型)発症し、リハビリ目的で約半年間入院。退院後、要介護2の認定となり、週2回でのデイケア利用開始となった。一時的に独歩での歩行が可能であったが、転倒を繰り返しY年前より車椅子の生活となり、移乗動作自立困難に至った。 初期評価(X日)では、MMT(R/L)体幹屈曲2 両体幹回旋2 大腿四頭筋3/4 股関節伸展2/3 両股関節外転2であった。感覚機能は、表在覚が右足底8/10軽度鈍麻、深部覚が右足底9/10軽度鈍麻だった。失調検査として、躯幹失調試験(以下;TAT)が stageⅢ 、Romberg徴候陽性、JOA score6/20、Berg Balance Scale(以下;BBS)は33/56点、Functional Assessment for Control of Trunk(以下;FACT)は5/20点だった。移乗動作は、片腋窩,側方介助もしくは前方手引きによる軽~中等度介助を要した。Hopeはベッドサイドへのポータブルトイレへの移乗動作自立である。Hopeに基づき、Needsを体幹機能の向上とし、移乗動作自立を目標とした。 【経過】体幹失調による側方動揺に対し、X+4日より臥位、座位レベルでの腹筋群、脊柱起立筋群の等張性収縮を用いた運動、平行棒内で立位にてCKCを用いた右下肢荷重訓練を開始した。左優位の荷重バランスにより右下肢へ荷重が不十分であり、座位で右臀部へ荷重訓練を開始したところ、立位で右下肢への荷重の誘導が可能となった。X+11日より平行棒内で段差を使用し、片脚立位でCKCでの下肢伸展運動・足底からの内在的フィードバックを目的とした訓練を開始し継続した。その結果、X+18日に移乗動作の側方動揺が軽減され、腋窩に手を添える程度の軽介助で行うことができた。X+21日に平行棒内でフロントランジを行いステップ動作に対して介入を行った。最終評価(X+42日)では、MMT(R/L)体幹屈曲3、両体幹回旋3、大腿四頭筋4/4、TATがstageⅡ、Romberg試験陽性(動揺は軽減)、JOA score8/20、BBSは40/56、FACTは10/20へと改善あり。移乗動作は側方動揺が軽減したことにより、近位監視レベルまで向上した。 【考察】本症例は、体幹筋の筋力訓練、荷重訓練、下肢伸展筋群・足底からの内在的フィードバックを継続的に行うことで、体幹失調のうち側方動揺を軽減することができた可能性がある。理由として、筋収縮は筋力や筋長に関するフィードバックを行い、そして筋収縮により生じた運動は関節や身体の位置に関するフィードバックを生み出したことにより、側方動揺が軽減できたのではないかと考える。また、下肢伸展筋群・足底からの内在的フィードバックを行うことで体幹の動揺に対して姿勢制御が行えるようになるため、これらが体幹失調を軽減させ、移乗動作能力が向上したのではないかと考える。 【検討事項】移乗動作自立に向けて、体幹失調に着目したが体幹以外に全身的な評価・治療介入が必要であったか。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき発表に関する内容説明を実施し、同意を得た。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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