九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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不安定型橈骨遠位端骨折の術後短期成績
掌側Distal Radius plateを使用して
*木浦 扇
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p. 10

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抄録

【はじめに】
 橈骨遠位端骨折に対する治療の原則は、骨片の解剖学的整復と強固な固定、早期からの筋力強化・可動域運動による上肢機能の回復を得ることである。2003年8月以降われわれは、掌側Distal Radius Plate(以下掌側DRP)を不安定型橈骨遠位端骨折の治療に使用してきた。掌側DRPは橈骨遠位端掌側面に合わせた解剖学的形状を有し、遠位骨片をロッキングバットレスピンにより強固に固定する事ができる。今回その短期治療成績について報告する。
【対象ならびに方法】
 対象は2003年8月から2004年4月の9ヶ月間に掌側DRPを観血的固定術に使用した不安定型橈骨遠位端骨折21手21例(右手8例、左手13例)である。受傷機転は転倒14例、スポーツ事故4例、転落1例、バイク事故1例、自転車事故1例である。症例の内訳は男性5例女性16例、年齢17から79歳(平均53.7歳)であった。21手のうち8手は転位を伴う関節内粉砕骨折であった。尺骨茎状突起骨折を15手に認め、このうち遠位橈尺関節の不安定性を認めた7手に骨接合を行った。術後療法は手指・肘ならびに肩関節の自動運動を術翌日より開始。術後1週間目に肘下シーネ固定を除去し手関節の可動域運動ならびに筋力強化を開始すると共に積極的な患肢のADL使用を促した。なお、1週目以降も熱可塑性樹脂を用いたshort arm splintを作業時のみ装着とした。これらの症例において術後の遠位骨片の転位状況を把握する為に、術後2週間おきにX-P撮影し橈骨掌側傾斜角、橈骨尺側傾斜角、橈骨・尺骨長差を計測した。臨床成績は手関節自動可動域、ならびに握力を2週間おきに測定した。術後経過観察期間は28日から179日(平均79.2日)、作業療法施行期間は平均67.2日、在院日数は3日から31日(平均10.4日)であった。
【結果】
 橈骨掌側傾斜角術前-28°から30°(平均2.0°)、術後-2°から17°(平均9.0°)、橈骨尺側傾斜角術前7°から26°(平均17.9°)、術後14°から30°(平均22.0°)、橈骨・尺骨長差は術前-4mmから2mm(平均-2.19mm)、術後-3.5mmから2mm(平均-0.83mm)と著明に改善していた。術後1週以降のX-P比較では、橈骨掌側傾斜角が2°以上、橈骨尺側傾斜角が1°以上の減少した例は無かった。なお、橈骨の短縮は、1mmを1例に認めたが、3mm以上の短縮を来した例は無かった。橈骨関節面は1例を除き掌屈位を保っており、背屈2°であった1例においても、経過観察期間中の掌側傾斜角の増悪を認めなかった。3ヶ月以上経過観察可能であった10例では全例良好な骨癒合を認め、最終X-P計測値は掌側傾斜角3°から17°(平均9.0°)、尺側傾斜角18°から25°(平均21.9°)、橈骨・尺骨長差-3mmから2mm(平均-0.8mm)であった。臨床評価では全例において経時的に可動域は改善を認めたが、特に術後6週目までの改善が著しく、この時点で掌屈20°から55°(平均41.9°)、背屈0°から65°(平均41.9°)、回内40°から80°(平均63.4°)、回外35°から90°(平均71.7°)を達成しており、ほとんどの例で患肢の日常生活動作における使用が可能であった。3ヶ月以上経過観察可能な例は、掌屈30°から65°(平均48.5°)、背屈30°から60°(平均51.0°)、回内50°から90°(平均67.0°)、回外65°から90°(平均77.5°)であった。握力は、2週目で0 kgから15.0kg(平均5.9kg)、4週目で0kgから18.0kg(平均10.0 kg)、8週目で3.0kgから30.0kg(平均14.7kg)と術後早期から比較的良好な回復が認められた。3ヶ月以上経過観察可能な例は、8.0kgから47.0kg(平均16.7kg)であった。また、3ヶ月以上経過した1例にADL制限が見られたが、それを含む全例に痛みの訴えは無く、受傷前の職業あるいは家庭内復帰を達成していた。
【考察】
 掌側DRPを使用した不安定型橈骨遠位端骨折21例について、X-Pを用いた術後骨片の転位状況、手関節及び前腕可動域と握力測定による治療成績の評価を行った。全例術後明らかな遠位骨片の転位は認められず、掌側DRPは早期からのリハビリ施行、日常使用に対し有効であると考えられた。また、ほとんどの例で、術後早期に良好な可動域ならびに握力の回復が認められ、このことは、通院によるリハビリ期間の短縮ならびに早期の社会・家庭内復帰に関与したと思われる。しかし、数例において十分な関節可動域、握力の再獲得に6ヶ月以上を有しており、その原因の解明とより有効なリハビリテーションプログラムの導入により、より良い成績が得られるようにすることが今後の課題であると考えられる。
【まとめ】
1、不安定型橈骨遠位端骨折に対し掌側DRPを使用した。
2、術後著明にX-P計測値の改善が認められた。
3、術後明らかな遠位骨片の転位は認められなかった。
4、早期回復により日常生活使用に有効であった。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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