九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳卒中片麻痺患者の視覚性及び迷路性の立ち直り反射の差がADLに及ぼす影響
*切通 陽介福田 秀文福田 隆一
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p. 27

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抄録

【はじめに】
 脳血管障害患者のADLに関する研究は、様々な視点から行われている。今回我々は、脳血管障害によるバランス機能の低下を生じている患者が、ADLに何らかの影響を及ぼしているのではないか推測し、データの収集,検証したので、若干の考察を交え報告する。
【対象】
 対象は発症より3ヶ月以上経過した脳血管障害患者11例(男性9名,女性2名)で、年齢67.3±5.8歳、右麻痺8名,左麻痺3名である。麻痺の程度は、B/S?から?で、高次脳機能障害や認知面の障害を起こしていない症例を対象とした。
【方法】
 評価項目として、頸部,体幹の立ち直り反射(視覚系,迷路系)、10m歩行(視覚系,迷路系)、ADL評価FIMをそれぞれ評価した。
 検証?:視覚,迷路のバランス機能の低下がADLに及ぼす影響を検証した。
 検証?:歩行速度とADLとの関係について検証した。
 検証?:目隠し10m歩行時の歩行偏位について検証した。その際、立ち直り反射を左右差なく行えた群3例(軽度群)、視覚的には問題ないが迷路的に麻痺側に低下を認めた群5例(中等度群)、迷路的に麻痺側に消失を認めた群3例(重度群)と3つの群に分け、バランス機能と偏位の関係を検証した。
 比較検定にはピアソンの相関係数にて危険率5%未満を有意水準として行った。
【結果】
 検証?:バランス機能の低下とFIMの総合点数、運動機能点数との間に正の相関関係を認めた。(p<0.05)このとき、総合点数よりも運動機能点数との間により強い相関を認めた。
 検証?:視覚的,迷路的な歩行速度とFIMの総合点数,運動機能点数との間に負の相関関係を認めた。(p<0.05)このときも同様、総合点数よりも運動機能点数との間により強い相関を認めた。
 検証?:目隠し歩行時の方向偏位に関しては、軽度群は3例とも麻痺側方向へかたよる傾向があり、逆に重度群に関しては3例中2例が非麻痺側方向へかたよる傾向があった。中等度群に関しては5例中3例が麻痺側方向へ,2例が非麻痺側方向へかたより歩行することを認めた。
【考察】
 一般に健常者は視覚的,迷路的な感覚を脳内にて統合し、かつ余分な運動を抑制することで身体各部をコントロールして姿勢を保つことができる。今回の調査では、視覚系のバランスの低下を起こしている症例は無く、迷路系でのバランス低下のみ認めている。FIMの総合点数全体平均は111.3点(88.1%)、運動機能点数は合計91点に対し平均77.1点(84.7%)であり比較的日常生活が自立されている方を対象に調査を行ったが、迷路系でバランスの低下を認める症例ではFIM点数の低下,歩行スピードが遅延する傾向にある。これは日常生活における視覚的な代償を多く必要とされ、かつ視覚と迷路との間のずれをうまく脳内で統合することができず細かな能力面の障害をきたしていることが予測される。FIMの減点項目として多かったのは清拭,浴室移乗,移動動作でありバランス面が関与する分野の項目で低下を認め、総合点数よりも運動機能点数でより強い相関が出たことにより、バランス機能がADL運動機能面の障害因子になることを示唆していると考えられる。
 歩行の偏位に関して軽度群と重度群で相違を認める。軽度群においては純粋に麻痺側の体幹の捻転、筋緊張の亢進の影響により麻痺側方向へ偏位して歩行したと考える。重度群に関しても同じことが言えそうだが、重度群の場合本来正中位にあるはずの体軸が、視覚的には代償がきくので正中位保持して歩行が可能であるが、目隠しをすることで視覚が遮断され、迷路系のバランスのみとなり体軸は健側方向に偏位してしまい、健側の重心の偏りによる歩行時の健脚立脚層が増大し、その影響で健側方向へ偏位する歩行になると考える。
 今回の調査にて、バランス機能の低下がADLに障害をきたす一要因であり、視覚と迷路のバランス機能の評価を初期時に行うことで、その後の患者の移動に関する予後予測の手がかりとして使用でき、治療プログラムの立案に役立つと考える。しかし、今回はデータ数が不十分であった点,中等度群において歩行の偏位に大きな差が出なかったことから結果の全てを断定することはできず、今後症例数を増やし更なる調査、検証が必要である。
【まとめ】
・脳血管障害のバランス機能とADLとの関係を調査、検証した。
・バランス機能の低下しているものほどADL,歩行能力に低下を認めた。
・バランス機能評価が、患者の予後予測を立てる一つの指標となると考え、今後更なる調査,検証を行っていく。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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