抄録
【はじめに】
腰椎椎間板ヘルニア(以下、LHNP:lnmbar herniated nucleus pulposus)の多くは、保存的療法が適応であることは広く知られている。今回、外来LHNP患者を対象に、初診時と治療終了時(以下、終了時)にそれぞれの臨床症状とMRI所見を比較し、異常所見と症状の関連について検討したので報告する。
【対象】
2003年6月から2004年3月までの外来腰痛患者で、MRIからLHNPと診断され保存的療法を行い、初診時と終了時にMRIを撮像出来た5例を対象とした。内訳は、男性4例、女性1例で、年齢は23歳~51歳、平均35.4歳であった。発症から受診までの期間は、最短で3週間が1例、1年以上が4例、最長が2年間であった。追跡期間は12週間~27週間、平均18週間であった。なお、外来指導は腰椎伸展運動と日常生活動作(以下、ADL)指導を行った。
【方法】
臨床症状の評価は、他覚所見からstraight leg raising testのSLR角度、自覚症状からvisual analogue scale(以下、VAS)を用いた。ADLについては、日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準のADL7項目を用いた。これらについて、初診時と終了時で比較した。腰椎MRI所見は、矢状面、横断面T2強調画像を撮像した。MRIよりLHNPの部位は、正常、中心、傍中心、外側に分類した。形態は、椎体の上下幅より正常、膨隆、脱出、遊離に分類した。突出度は、矢状断像の硬膜管の占拠率から正常、1/3未満、1/3以上に分類した。椎間板変性は、Schneidermanの分類に従いgrade1(normal)、grade2(decreased)、grade3(diffuse loss)、 grade4(signal void)に分類した。
【結果】
1.初診時と終了時の臨床症状
SLR角度は、初診時90度から終了時90度が3例で、改善がみられたものは20度から70度が1例、45度から80度が1例であった。疼痛の部位は、初診時臀部痛2例、下肢痛2例であったが、終了時は臀部痛3例、下肢痛1例で症状の中枢化がみられていた。VASは、初診時平均5.12、終了時平均0.78と軽減していた。ADLは、初診時平均8.6点から終了時平均11.6点と改善がみられた。
2.初診時と終了時のMRI所見
羅患部位は全例1椎間で、L4/5間:2例、L5/S1間:3例であった。初診時の部位は中心4例、傍中心1例であり、突出度は1/3未満4例、1/3以上1例であった。形態は膨隆1例、脱出4例であり、椎間板変性はgrade2:1例、grade3:3例、grade4:1例と変性が進んだものが多かった。終了時は部位、突出度、形態、変性ともに変化無く、L5/S1の1例に新たにL4/5間に膨隆が認められた。以上のことから、初診時と最終時のMRI所見に変化は見いだせなかった。
【考察】
今回の対象群は、LHNPの部位がほぼ中心で突出度が軽度から中度、椎間板変性が認められる慢性期が多かった。症状の経過は、保存的療法で軽減し日常生活活動性も高まっていた。しかし、初診時と終了時においてヘルニア腫瘤に変化はなく、MRIでとらえられる異常所見やヘルニア腫瘤の存在が必ずしも症状に関与していないことが考えられた。このことは、文献においても臨床上ヘルニア腫瘤の縮小と症状の軽減が必ずしも一致していないことから今後の課題といわれている。椎間板ヘルニア魂による腰痛の機序は明らかではないが、髄核に由来する化学的因子と機械的圧迫の両者が急性期、慢性期を問わず関与するといわれている。1例の急性期の疼痛については、炎症性化学的因子の関わりが強いと思われるが、4例の慢性期の疼痛については、化学的因子に加え機械的圧迫及び椎間板変性の関与も大きくなってくるのではないかと思われる。これらのことから、慢性のLHNPに対する機械的圧迫の軽減は慢性腰痛の予防につながるものと考えられる。今回の結果より、腰痛の発生源はヘルニア腫瘤だけでは無く多面的な評価が必要であり、また、患者自身のLHNPに対する理解、自己管理、意欲の維持、これらを可能にする信頼関係が重要と考える。
【まとめ】
1.ヘルニア腫瘤と症状の間に関連性は見出せなかった。
2.症状に対する多面的な評価と継続的な自己管理の必要性が考えられた。