九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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入浴動作獲得に向けて
多彩な高次脳機能障害を呈した症例
*渡邉 香菜
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p. 135

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抄録

【はじめに】
今回、脳血管障害により多彩な高次脳機能障害を呈し、ADLに支障をきたす一症例を経験した。入浴動作における症例の行為の特徴を評価し、写真を利用して風呂場でのアプローチを主に実施した。その経過について報告する。
【症例紹介】
症例:71歳、男性。診断名:アテローム血栓性脳梗塞による右片麻痺。現病歴:平成16年8月18日発症し、S病院入院。同年8月30日リハ目的にて当院入院。
【画像所見】
左中大脳動脈全領域の虚血を示唆する所見で、穿通枝および皮質下領域主体にまだら状の梗塞巣あり。
【OT初期評価】
神経学的所見
Br.stageは、上肢・手指・下肢ともにVI。感覚は、表在・深部ともに正常。レーブン色彩マトリックス検査は、15/36。
神経心理学的所見
認知面は、視覚・触覚からの情報処理可能。言語面は、重度の混合性失語。
ADL
FIMは、80/126。
【経過】
院内ADLでは、入浴以外はアプローチの結果自立に至る。
【入浴場面での問題点】
入浴場面では、入浴準備困難、道具の誤使用、系列動作においての動作の省略、保続現象という4つの問題点が挙がった。
【アプローチと考察】
上記の問題点より、家庭復帰に向けて入浴訓練を導入した。入浴準備困難に対して、病室にてOTRと一緒に入浴準備を実施した。結果、準備可能となった。また、道具の誤使用に加えて動作の省略という系列動作での問題も認められた。そこで、写真を利用してのアプローチを試みた。道具の誤使用に対して、訓練室にて写真を見ての行為を実施しても誤使用が出現した。そこで、写真の導入にあたり、写真の理解をマッチングで評価すると、色・形・大きさの認知は可能であった。これをRothiらの行為処理モデルで考えると、視覚・物品入力過程において物体認知システムまでの経路は促通していたといえる。次に、風呂場にて写真を見ての行為を試みると、誤使用が減少した。写真を用いた実際場面でのアプローチは、視覚・物品入力過程において、意味システムまでの経路を促通していたといえる。このことから、入浴動作獲得のため実際場面での写真の利用や環境設定などの工夫を行ったアプローチが、本症例にとっては非常に有効であったと考える。また、写真を見ての単一行為が良好になった時期から、動作の省略に対して、順番に並んだ写真を見ての行為訓練を導入した。結果、保続が残存し自立には至らなかったが、動作の省略は消失し、入浴における介助量は大きく減少した。
【まとめ】
今回、多彩な高次脳機能障害を呈する症例について、Rothiらの行為処理モデルをふまえて症例の入浴動作における行為の特徴を評価した。写真の提示などの工夫と実際場面でのアプローチが、本症例には有効であったと考える。

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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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