九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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Cyber knife治療と作業療法
脳腫瘍患者を経験しての一考察
*上田 晴香山田 康二植木 恵武田 裕
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キーワード: CK治療, 脳腫瘍, 作業療法
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p. 136

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抄録

【はじめに】
平成16年11月、当院にCyber KnifeII(以下:CK)が導入され、作業療法士(以下:OT)はCK治療とリハビリテーション(以下:リハ)目的で当院入院となった脳腫瘍患者を担当する機会を得た。身体機能低下による在宅生活困難や治療・予後への不安のため心理的援助のもとでのADL能力向上により在宅生活を目指した患者とのかかわりと経過を以下に報告する。
【CK治療】
米国で開発された低侵襲で分割治療が可能な定位的放射線治療。脳腫瘍・頭頸部腫瘍・脳動静脈奇形(保険適応)、三叉神経痛(保険適応外)などを対象とし、1回30分から60分の治療を数日間実施する。通院治療も可能なため治療中も日常生活が継続できるという利点がある。
【症例紹介】
疾患名:脳腫瘍       79歳。女性。HOT使用。
現病歴:平成16年6月頃より時々頭痛あり病院受診。右頭頂葉に2cmの腫瘍を指摘され、経過観察していたが物忘れがひどくなり10月に腫瘍の増大が認められ転院。CK治療目的にて当院紹介。11月初旬に当院入院となる。
家族構成:長男家族と同居   主介護者:長男の嫁
家族希望:屋内の歩行が軽介助で行えてほしい
demand:家に帰りたい 家屋:入院前より改修済み
【治療前評価】
 意識レベル清明。明らかな麻痺や感覚障害は認めず筋力:上肢3、下肢3level。HDS-R14点。FIM68点。起居動作・移乗動作:要介助。座位保持困難。移動:車椅子全介助。排泄動作:要介助。治療に対する不安感強く、リハ介入にも拒否的。悲観的言動も多く対人交流や生活に対する意欲低下を認める。家族情報「ひと月程前から両足が上がらず介助困難な状態であった。」「おかしな発言が増えた。」
【作業療法経過および結果】
(CK治療前:CT・MRI検査、マスク作成。)
心理面:検査による疲労感、身体機能低下や治療による不安感、苛立ち。生活全般に対する意欲低下あり。OT訓練に対し拒否あり介入困難なことが多い。
OT介入:評価。家族・本人からの情報収集。臥床していることが多いが、生理的なニードが高く離床を促しやすいことより主に排泄動作から介入する。
(CK治療初日:午前10時より治療開始。照射時間約40分。治療後点滴投与。5日間とも同様。)
心理面:疲労感は変化なし。苛立ちも感じられる。
OT介入:少数頻回に排泄動作に介入。
(CK治療2日目:照射・点滴)
OT介入:離床への心理・身体負担軽減を目的にbedside端坐位にて頚・肩のstretchを開始しfree talkを実施。少数頻回排泄動作は継続。
(CK治療3日目から5日目:照射・点滴)
心理面:自発的発言、笑顔あり。「体を動かせ気持ちが良い。」「待っていた。」「歩いてみる。」など前向き。
OT介入:少数頻回のADL訓練は継続。車椅子でリハ室へ誘導。途中、散歩として外の景色を眺める。リハ室では上肢stretchを実施。30から40分程離床。最終日には起立、歩行訓練を本人希望により実施。
(CK治療後:経過観察)
心理面:生活に対して意欲的。前向きな発言が増えた。
OT介入:少数頻回のADL介入は継続。移動に歩行を導入。上肢機能や立ち上がりにおいて自主訓練を導入。集団への参加。治療後8日目には家屋訪問を実施し、帰院後、家屋の様子を症例に伝え、具体的に必要な歩行距離などのADL能力を提示し、訓練に導入。
【最終評価】
生活や対人交流も意欲的。離床時間は拡大し、日中は自主的に端座位で過ごすようになった。言動も明るく笑顔が増えた。筋力:上肢4、下肢4level。HDS-R19点。FIM85点。起居・移乗は要監視。移動では歩行が軽介助にて可能、排泄動作は要監視となり能力の向上を認めた。
【考察】
脳腫瘍では腫瘍による圧迫により、多様な症状を示し麻痺や高次脳機能障害を呈する場合もある。そのため、日常生活に支障をきたすことも多い。症例は、麻痺や高次脳機能障害は認められなかったが全身の機能低下や認知症々状に加え、意欲低下をきたし活動量が著しく減少していたことから廃用を生じADL能力の低下により在宅生活が困難となっていた。今回CK治療では安静を強いられる事がなかったため治療中の活動の継続が可能であり、治療とリハを併行して実施していくことができた。治療前の早期からの心理的援助のもとでのADL介入や活動の継続が可能であったことで廃用予防や短期間での能力の向上を認めることができた。OTの特性を十分に生かし少数頻回のADL介入やActivityとしての散歩、集団への参加、家屋評価・指導など多方面から介入できたことは有効であったといえる。今回の関わりを経験し、短期間で生じ得る廃用を予防するためにも治療と併行しながらも可能な限り活動を継続することの必要性を感じた。今後も症例を重ね、より適切な心理的、身体的援助により、患者のQOL向上を目指していけることを望む。

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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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