九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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び漫性軸索損傷患者に対する作業療法アプローチを経験して
!)注意障害に対するアプローチの重要性!)
*杉若 明則山中 真理子大塚 あずさ兼田 洋美中津 順子畑中 秀行
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p. 137

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抄録

【はじめに】
 発症から8ヶ月経過したび漫性軸索損傷患者を担当する機会を得た。意欲・自発性、注意の低下が著しく日常生活動作(以下ADL)の遂行に大きく影響を及ぼしていたため、これらの向上を目的にアプローチを行った。その結果、ADLの動作能力において若干の変化が見られたので考察を加え、以下に報告する。
【症例紹介】
診断名:び漫性軸索損傷。22歳男性。H16.2.10交通事故にて受傷。受傷時Japan Coma Scale(以下JCS)III-200。H16.10.28当院転院。CT所見:脳室・脳溝の拡大。左前頭葉・脳幹部に脳挫傷による損傷。
<OT初期評価>JCSI-1。Br. Stage:(右・左)上肢手指V・II、下肢III・II。四肢可動域制限あり。全身筋緊張亢進。Barthel index(以下BI):5点。食事はスプーン使用にて軽介助。その他は全介助。注意(覚醒水準、集中、持続)・記憶・見当識・知的機能の低下(WAIS-R:言語性IQ65・動作性IQ46以下・全体的IQ44)、病識の欠如。意欲・自発性の低下、退行・易怒性あり。「何もしたくない」など依存的で介助を求めることが多い。動作が雑。訓練に対する注意の持続が15分可能。
【アプローチ及び経過】
1期:意欲・自発性の向上を目的にテレビゲームやパソコン、トーキングエイドを実施。ADLでは食事、整容、座位訓練を開始。2期:自己・現実認識、記憶の向上を目的にリアリティーオリエンテーションを開始。排泄、更衣、立位訓練を開始。3期:活動範囲の拡大を目的に車椅子駆動、集団内での食事を開始。全体では注意の向上を目的に環境設定(個室や一定環境)やキーワード(好きな人や食べ物)を用いた言葉かけ、リアルフィードバック、音楽運動療法を継続して行った。
【結果】
BI:5点。点数上は変化ないが、「○○がしたい、○○へ行きたい」など要求が聞かれ、依存傾向や動作の雑さが軽減した。WAIS-R:言語性IQ74、動作性IQ46以下、全体的IQ52。訓練中の注意の持続が15分から30分に延長した。
【考察】
 鹿島らは「注意はあらゆる精神活動の基盤であり認知・思考・行為・言語・記憶に重大な影響を及ぼしている。」と述べている。本症例も訓練開始当初、注意障害により意欲・自発性の低下が強く見られていた。興味・関心のある活動やキーワードを利用することで覚醒水準が上がり、注意の集中・持続が向上し、自発的な行動が得られたと考える。その結果、精神活動の基盤である注意の向上が得られたことで、それまで阻害されていた自己・現実認識、記憶に対するアプローチが有効になった。また、動作での汎化が得られたことでADLの動作能力の向上につながったと考える。

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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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