九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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下垂足に対する装具検討
1症例を通して
*石田 俊五十峯 淳一
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p. 139

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抄録
【はじめに】
 短下肢装具(以下AFO)は、従来からの金属支柱付きAFO、後方支柱型(以下シューホーン)に代表されるプラスチック一体型AFOに加えて最近は多種類のプラスチック足継手付きAFOが開発使用されている。しかし、現状ではこれらの装具適応基準がはっきりしておらず装具選択においては処方者の経験に依る所が大きいように感じる。今回、下垂足を呈する患者1症例を対象にAFOを装着し歩行解析を行い装具選択に関する若干の知見を得たので報告する。
【対象】
 対象は、外傷性の腓骨神経麻痺により重度の右下垂足を呈する男性患者1名(50代)
【方法】
 超音波式三次元動作解析装置(zebris社製)を使用し、裸足、シューホーン、油圧ユニット足継手付きAFO(以下油圧AFO)装着時の歩行を計測した。データ処理は歩行解析ソフトWinGate3(同社製)を用いて行い、各々の1歩行周期おける股・膝・足関節角度、ケイデンス、歩行速度、歩幅を解析した。同様に、同装置にて健常人30人の正常歩行も計測し比較した。油圧AFOは油圧抗力を4段階に設定して計測した。
【結果】
 シューホーンは立脚初期において若干の角度変化はあるものの足背屈位を保ったままであった。正常歩行に比し立脚中期に膝屈曲が大きく遊脚期に股屈曲が小さかった。一方、油圧AFOは油圧抗力が小さくなるほど立脚初期に足底屈がみられ設定2,3が最も正常歩行に近かった。また遊脚期でシューホーンと比較して足背屈角度の増加がみられた。股、膝の角度変化は設定2で正常に近かった。ケイデンス、歩行速度、歩幅はシューホーンに比し油圧AFOの設定2,3で高値を示す結果となった。主観的評価では油圧AFOの設定2.5が最も歩きやすいという評価であった。
【考察】
 油圧AFOは、油圧抗力を調整することで立脚初期に適正な底屈制動モーメントと遊脚期における背屈補助が働き、より正常に近い角度変化を示すことが出来たと考えられる。つまり適度な制動を加えながら足底屈を行うことによって股、膝関節の動きをコントロールし全体的な歩きやすさに繋がったと考えられる。またケイデンス、歩行速度、歩幅が油圧AFOの設定2,3で共に高値であるのは、上記の理由に加えシューホーンが立脚中期から後期にかけて背屈制動モーメントを生じるのに対し油圧AFOは足背屈フリーであり、これが立脚中期から遊脚期への前方重心移動を容易にし歩行向上に影響したと考える。相川らの油圧AFOの底屈制動モーメントに関する研究によると設定2.5で底屈制動モーメントは30Nm程度働くと報告されている。これらのことから、今回の症例に限って言えば30Nm程度の底屈制動モーメントを有する足継手付きのAFOが最も正常歩行に近く使用感も良好な装具の1つであることが示唆された。今後はさらに症例を重ねていき装具選択の一基準を築けたらと考える。
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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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