抄録
【はじめに】早期在宅へのニーズが高まる中、家族の要望が高いもので排泄動作の自立が挙げられる。排泄動作は上肢による動作、移動、移乗、姿勢変化の際のバランス動作など様々な動作の連係から成り立っている。そのため自立に向けた獲得が難しい動作であるとされる。そこで今回、排泄動作の現状把握を目的に調査・検討し、若干の考察を加えてここに報告する。
【対象・方法】対象は当院入院中の患者で、作業療法を実施している者のうちトイレ(P-トイレ含む)を使用して排泄を行っている29名(男性9名、女性20名、平均年齢は73.38±14.31歳)とした。調査方法は、排泄動作を1.尿意・便意、2.移動、3.衣服を下げる、4.移乗、5.排尿・排便、6.後始末、7.衣服を上げる、8.手洗いの8項目に細分化し「できる」「している」において自立、監視、一部介助、全介助で評価した。また、その他の調査項目は移動区分(歩行可能群と車椅子群と群分け)、痴呆の有無、意欲の指標(Vitality Index:V.I、7点以下を意欲低下群、8点以上を意欲あり群と群分け)、高次脳機能障害の有無を調査した。排泄行為の調査項目で「できる」「している」の差から、差がある群と差が無い群に群分けし、その他の調査項目と比較した。
【結果】「できる」「している」の間に差がみられた者は13名(44.8%)であった。項目別では移動、衣服を下げる、移乗、後始末、衣服を上げる、手洗いにおいて「できる」「している」の間に差がみられた。また、これらの項目において、「できる」が監視、一部介助の者が多い傾向であった。差がある群と差が無い群で、V.I、移動区分、痴呆の有無、高次脳機能障害の有無を比較した結果、移動区分で有意な差がみられた(P<0.05、カイ二乗検定)。
【考察】今回の調査により、排泄動作において約半数の人に移動、衣服を下げる、移乗、後始末、衣服を上げる、手洗いの項目で「できる」「している」の間に差がみられた。一般的に意欲、痴呆度、高次脳機能障害はADL動作獲得の阻害因子になることが多いが、本研究では、移動区分の車椅子レベルで日常生活自立度Bランクの者に差がみられた。この結果から、車椅子移動で、移乗動作や立位能力に障害があるレベルでは、介助量に差があり、介助するスタッフの介助方法により、残存能力の発揮力が左右されることが考えられる。よって、様々な動作を含む一連の動作として獲得される排泄動作では、病棟におけるADL訓練の不十分さ、看護・介護スタッフとの情報共有不足などにより「できる」「している」の差が生じやすい現状にあると思われる。
今後の課題として、定期的な評価を実施し個々に合った動作のアプローチを行い「できる」能力の向上を図り、「している」能力との差を少なくし、排泄動作獲得へつなげていく必要がある。