九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
会議情報

半側空間無視および身体失認を呈した脳卒中患者への更衣動作アプローチ
*木下 美智子渕 雅子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 175

詳細
抄録

【はじめに】左半側空間無視、身体失認を呈した脳卒中患者を担当した。更衣時において、身体意識の低下が手順の間違いや袖通しの困難さに影響していたため、ビデオや物品操作を用いた視覚・体性感覚入力による自己身体意識の向上やカードを用いての手順の修正への介入を行った結果、改善を認めたので考察を加え報告する。
【症例】85歳の女性で、平成16年9月23日に脳梗塞(右基底核から放線冠)を発症し、左片麻痺を呈し平成16年10月18日より当院でのリハビリを開始した。
【OT評価】身体機能は、Br.stage上肢3から4、手指3、下肢4で、表在・深部感覚左上下肢、体幹で軽度鈍麻。非麻痺側上肢機能は、簡易上肢機能検査(以下、STEF)が79/100点でスピードの低下を認めた。精神機能は、Mini Mental State Examination(以下、MMSE)で17/30点、行動性無視検査日本版(以下、BIT)は、通常検査107/146点、行動検査60/81点でともにカットオフ値以下で、左半側空間無視を認めた。また動作時に左上下肢の忘れがみられる等身体失認も認めた。ADLは機能的自立度評価(以下、FIM)73/126点で、更衣は袖・頭部・背部の通しの介助が必要で3点であった。
【着衣の問題】右袖・頭部から通し始め、左袖からの通しを誘導しても修正が行えなかった。また他動的に左袖入れを促しても、袖に腕を十分に通せず、頭部を通していた。
【治療目標・期間】身体意識を高めることにより、正しい手順とスムーズな袖通しの獲得により、更衣の自立を図る。期間は2ヶ月実施した。
【治療】身体意識を高めるために、まずセラピストの介入により症例が左袖から着衣している場面をビデオカメラにて撮影し、そのビデオを提示して動作の視覚的に確認を行った。加えて、操作手順を文字でカードに示し、言語における視覚的、聴覚的に喚起した。次に、台拭きや積み木等の操作や筒状の布や手袋を用い、正しい部位に身体を合わせていくといった両手協応動作を行い、視覚-体性感覚の連合を行った。さらに、実際場面での継続を目的とし、看護師の協力を得て、カードを利用しての更衣動作を行った。
【結果および考察】STEFは85/100点、MMSは22/30点に向上し、BITは通常検査124/146点で、行動検査は72/81点と正常値を示した。着衣は手順の間違いはみられず、左袖通しもスムーズになり、FIMは準備のみ介助で5点となった。以上より、自身の動作をビデオで視覚的に確認し、加えてカードによる視覚的・聴覚的な確認の強化、さらには物品操作を行い視覚-体性感覚との協調的な運動を促すことで左側の身体意識が高まり、正しい手順での更衣が可能となったと考える。

著者関連情報
© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top