九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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能動義手による食事動作の獲得
*花山 友隆長野 浩子
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キーワード: 義手, 食事, 脳卒中
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p. 73

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抄録
【はじめに】脳出血により重度の左片麻痺と高次脳機能障害を呈した右前腕切断の既往を持つ症例を担当した。右上肢の義手側は補助手として使用していたが今回の発症により、右上肢に実用手としての機能性を獲得する必要性が生じた。そこで能動義手を作成し、訓練を行った結果、食事動作が獲得できたので報告する。
【症例紹介】53歳、男性 診断名:脳出血 発症日:平成16年3月8日 既往歴:25年前、農作業中の事故にて右前腕切断(短断端)。装飾用義手を装着し左手で日常生活を行っていた。
【初回評価および問題点】Br-stage上肢2・手指2・下肢4。感覚は表在・深部共に重度鈍麻。高次脳機能障害は、左半側空間無視、注意障害などを認めた。基本動作・ADLはほとんど全介助であった。Barthel Index(以下BI)10/100点、機能的自立度評価(以下FIM)42/126点。
義手操作では手先具(回内位45°で固定。ドーランス型の能動フック)の開閉に必要な体幹や肩甲帯の運動が乏しく、力の調節や様々な場所での開閉は困難であった。また右上肢の代償運動も拙劣であり、手先具の角度を調整しても、身体や物品に合わせることが困難であった。操作後は疲労の訴えがあった。
食事動作は左側の食器を見落とし、食べこぼしあり。汁物は手先具をお碗に合わせられず運搬時にこぼしてしまい、実用的ではなかった。
【目標】能動義手操作に適応した坐位姿勢や能動義手の力源となる体幹、肩甲帯の協調動作と、右上肢の代償動作、手先具の操作を学習し、食事動作の獲得を目指した。
【経過および結果】訓練室では右肩甲帯の可動性と左肩甲帯の安定性、体幹の分節的な運動を徒手的に介入しながら義手の操作訓練を行った。つまむ物品の種類や位置、大きさ、高さを変化させながら、手先具の方向性、開閉時の力の調節・タイミングの学習を図った。実際の食事場面でも食器の位置などを考慮し実用的な動作へとつなげていった。また常時、坐位を安定させ、左側への注意を促した。その結果、義手操作時の重心移動、肩甲帯と体幹の協調したリーチ、手先具の操作が疲労の訴えなく可能となった。食事動作ではスプーン操作が円滑に行えるようになり、食器の見落としや食べこぼしがみられなくなった。その他、義手の着脱やセッティングは介助を要するものの、一口量の調整、汁物の摂取、コップを把持、お碗の蓋を開ける、ラップをはがす、タオルで口周囲を拭くなどの動作を獲得できた。B.I40/100点、FIM67/126点。
【考察】本症例が義手操作を獲得するためには、運動麻痺と高次脳機能障害という問題だけでなく、切断後、長年、補助手として使用していた切断肢に機能性を獲得させる必要があった。今回、脳卒中と切断の両側面からアプローチを行ったことが食事動作の獲得に至ったと考えられる。
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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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