抄録
【はじめに】
今回、両大腿部血腫後、両大腿部に異所性骨化を呈し両膝に高度の可動域制限と疼痛を呈したため、骨化除去術を行った症例の理学療法を経験し若干の知見を得たので報告する。
【症例紹介】
22歳男性。平成17.5中旬、屋根より転落し両大腿部を強打。6.6近医受診し、両大腿部血腫との診断、鎮痛剤内服処方のみで帰宅。その後、何度も当院救急外来受診し、6.16両大腿部異所性骨化との診断で骨化予防のためダイドロネル処方。ope勧められるも拒否。しかし、両大腿部痛増悪し歩行困難となり、6.28ope目的にて当院入院となる。
【術前評価】
H17.6.13関節可動域(以下ROM)は、右膝屈曲70°伸展0°、左膝屈曲50°伸展0°であった。
【画像所見】
CT・MRI所見より、左大腿部は左大腿骨前面、中間広筋に広範囲・長軸方向の石灰化を認めた。右大腿部は中間広筋中心部から近位側部に散在性の石灰化を認めた。
【術中所見】
平成17.6.29骨化除去術施行。両側とも大腿外側から切開を加えて可及的に摘出を行った。術中麻酔下にて右膝屈曲140°、左膝屈曲120°となった。
【術後療法・経過】
骨化除去術施行後、骨化防止のためダイドロネルを服用。7.4よりROMex開始。右膝屈曲140°、左膝屈曲70°と改善したが、左大腿部の強い疼痛により左膝ROM改善思わしくないため、8.18左観血的関節受動術施行。前回の皮膚切開に沿って切開をくわえ、外側広筋、大腿筋膜張筋との筋膜の癒着を剥離し、筋膜の癒着による一部線維化部位を伸張により切離したところ、術中膝関節は140°まで屈曲可能となる。しかし、術後再び疼痛により左膝ROM制限が出現してきたため持続硬膜外麻酔を注入し、ROMex行うも大腿部痛あるため、9.2麻薬のフェンタネスト5Aを使用しROMexを行う。9.3ROMex時、負荷過剰にて膝蓋骨スリーブ骨折発生。10.20自宅退院。退院時、右膝ROMは正常まで改善したが、左膝は屈曲40°伸展0°となった。歩行は独歩可能だが、左膝疼痛あるため破行見られ、又時々膝不安定感があった。経過として骨化の増悪はみられなかった。
【考察】
今症例の異所性骨化の原因として、転落による受傷後、両大腿部に血腫が発生。その後、歩行不能となるまで生活し、筋に負担をかけたことで、繰り返し血腫が発生し、広範囲な異所性骨化へと悪化したと考えられる。骨化除去術により右膝関節の改善はできた。これは、骨化の範囲が少なく、筋や軟部組織への影響が少なかったためと考える。左膝関節については、異所性骨化が大腿四頭筋部の約30%と広範囲にあったため、ope時の広域な除去が筋・軟部組織に対し大きな影響を与え、強い疼痛となり改善できなかったと考えられる。今後は骨化部やope侵襲による筋への影響を考慮し、術中角度から目標角度について充分検討しアプローチしていきたい。