九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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11年間にわたる膝関節拘縮に対して授動術を行った一症例
*川元 美佳宮崎 創大重 裕子城石 達光
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キーワード: 拘縮, 授動術, 癒着
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p. 11

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抄録

【はじめに】
 拘縮に対しての授動術は早期が有効といわれており、長期間続いた拘縮の授動術や理学療法の報告は少ない。今回11年という長期間の膝拘縮で観血的受動術を行った症例の理学療法を経験したのでここに報告する。
【症例紹介】
氏名:K,S氏 年齢:30歳 性別:女性
診断名:右膝拘縮(屈曲95°、伸展0°)
主訴:正座がしたい。
既往歴:11年前交通事故にて右大腿骨骨 幹部骨折、右大腿骨頚部骨折を呈し髄内釘、プレート固定術を施行。OPE後はギプス固定、長下肢装具固定を行い、退院後は疼痛により途中で外来ハビリを拒否している。よって可動域訓練は不十分であったと考える。
【術中所見】
観血的関節授動術で、まず鏡視下にて膝蓋上嚢を剥離。しかし可動域変化なく、次に大腿直筋と内側広筋間および大腿直筋と外側広筋間を中枢方向に向かって剥離し、その後大腿筋膜張筋を横に1cm程切離し延長した。それでも可動域改善はあまりみらなかった為、大腿骨膜から四頭筋遠位2/3をほぼ全周性に剥離した結果、術中膝関節は屈曲140°となった。
【理学療法経過及びアプローチ】
術後3日目より徒手による可動域訓練を開始した。初めは疼痛なく屈曲130°可能だったが、次第に疼痛強くなり屈曲100°となった。そこで術後9日目より持続硬膜外麻酔注入での可動域訓練を実施した。初日は疼痛なく140°屈曲可能だったが、四頭筋の緊張は非常に高かった。その後、時間の経過とともに麻酔効果減少し疼痛増強と嘔吐等の副作用も見られた為、注入21日目に抜去した。膝屈曲角度は他動で95°だったが、術前に比べ四頭筋の緊張は低下しているように思われた。アプローチとしては、疼痛増減により可動域訓練に難渋した為、途中よりリラクゼーションをより重視し、抜去後は渦流浴時やホットパック使用時に持続伸張を多く取り入れた。結果、術後7週で膝屈曲自動100°、他動120°と改善し退院した。その後外来リハを続け術後6ヶ月で自動125゜、他動140゜と術中と同じ角度まで改善がみられ、四頭筋の柔軟性も獲得できた。この結果正座は不可能だが術前には不可能だった体操座りや横座りが可能となり症例の満足度を得ることができた。
【考察】
本症例の膝拘縮の主な原因は広範囲にわたる骨膜と四頭筋間の癒着と、四頭筋の短縮だったと考えられる。その為、術後の理学療法は再癒着の予防と四頭筋短縮に対する伸張を中心に行った。筋の短縮は筋節数が減少することで起こり、短縮早期の筋節数の減少は伸張刺激を加えて運動を行うことで、もとの筋節数に戻り筋の柔軟性を獲得できると言われている。しかし本症例は11年間の拘縮にも関わらず、授動術と長期にわたる理学療法を行うことで筋の柔軟性を獲得し、可動域も術中角度まで改善することができた。このことから、長期間の筋の短縮であっても減少した筋節数が改善する可能性があると思われた。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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