抄録
【はじめに】
当院では慢性期脳卒中片麻痺の内反尖足、槌指変形に対して腱延長術、切腱術を行っている。それにより足部の関節可動域の増大、足底接地面の増大、それに伴う患側立脚期の延長などの変化を認めている。以前の調査によって腱延長術、切腱術後1年以内の患者においては、歩行スピード向上、歩数減少傾向が認められた。しかし、術後の経過が長くなると、術前と同様の変形をきたしてしまうといわれている。この変形のために、手術により認められた変化もなくなってしまうと推察される。そこで今回、腱延長術、切腱術を行い1年以上経過した患者に対して術前後の変化を10mの歩行スピード、歩数、安静立位での麻痺側への荷重量に注目して調査を行ったのでここに報告する。
【方法】
対象はH18.1.1からH18.4.1に当院外来通院中で独歩可能な慢性期脳卒中片麻痺患者でVulpius変法、長趾屈筋腱、長母趾屈筋腱、後脛骨筋腱の切腱術を施行し1年以上経過した9名(脳梗塞5名、脳出血4名 右片麻痺7名、左片麻痺2名 年齢65.1±9.4歳 発症日2841±2035日 術後502±93日)である。評価内容は術前後の10m歩行(スピード、歩数)、静的な開脚立位においての左右足底への荷重量をzebris社製foot printを用いて計測し、それぞれ比較を行った。
【結果】
術前後の10m歩行スピード、歩数、麻痺側への荷重量において、それぞれ対応のあるt検定を行ったところ、全てにおいて有意差は認められなかった(P>0.05)。そこで各々の患者の術前後の歩行スピード、歩数、麻痺側への荷重量を比較したところ、歩行スピード短縮が5例、遅延が4例、歩数の減少が5例、歩数の増大が4例、麻痺側への荷重量の増大が5例、減少が4例であった。歩行スピードと歩数に関しては、歩行スピードの短縮が認められたものの、歩数が増加した症例が1例、逆に歩行スピードの遅延が認められたものの、歩数が増加した症例1例、歩行スピードが短縮し、歩数が減少した症例は4例であった。つまり、歩行スピードと歩数には多少の相関が認められた。しかし麻痺側への荷重量の変化と歩数、歩行スピードには相関が認められなかった。
【考察】
腱延長術後には、腱の短縮、退院後の運動量の減少などの原因により、足部変形が術前と類似した変形を呈すると言われている。今回の調査結果より、術後1年以上経過している患者の術前後での歩行スピード、歩数、荷重量は変化しない傾向、つまり術前と同様の状態に戻る傾向にあるということがわかった。しかし、今回の調査においては評価項目が少なく、その要因が筋の短縮による関節可動域制限によるもの、退院後の運動量の減少による筋力低下によるものなど、実際に何が影響を与えているかを証明するに至らなかった。そのため、今後は関節可動域、痙性の程度、退院後の運動量などを含めた調査を行い、何が影響を与えているのか、更なる研究の発展に努めたい。