九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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股関節疾患における腰痛の発生に関する腰椎伸展可動域と骨盤前傾角の関連性
*大平 高正都甲 純井上 博文山野 薫山田 健治加藤 浩
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p. 30

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抄録


【はじめに】
変形性股関節症における腰痛の発生率は高く、先行研究では、人工股関節全置換術(THA)を実施した患者の約65%に発症していた。また、骨盤前傾角と腰痛との関連性が指摘されている。今回、股関節と腰椎の機能的連携の観点から、股関節疾患症例の腰痛と腰椎伸展可動域および骨盤前傾角との関連性について調査を行ったので報告する。
【対象と方法】
当院整形外科にて、THAを施行した股関節疾症例17例とした。理学療法開始時に、入院前の腰痛の有無を問診にて調査した。ここでいう腰痛は、胸腰椎移行部から殿部までの範囲に自覚される疼痛で、明らかな下肢痛を有する場合は対象外とした。対象者の詳細は、平均年齢59±15歳(腰痛群62±10歳、非腰痛群59±15歳)、男性4例、女性13例。腰椎伸展可動域の測定は、腹臥位で両手を用いて体幹を伸展させた時の、ベッドから胸骨切痕までの距離を計測する方法(prone press-up:PPU)を用いた。PPUは、被験者の身長で除し、標準化した。骨盤傾斜角は、手術前の臥位の正面単純X線像から算出した。統計学的処理は、Mann-whitneyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。PPUと骨盤前傾角との相関も検討した。
【結果】
手術前に腰痛のあった患者は8例(44%)であった。PPUは、腰痛群14.3±3.1cm、非腰痛群22.4±2.6cmであった。骨盤前傾角は、腰痛群5.8±16.4度、非腰痛群8.2±17.3度であった。腰痛群と非腰痛群との比較では、PPUに有意差(p<0.0001)が認められた。しかし、骨盤前傾角には、有意差は認められず、PPUと骨盤前傾角との間には、相関は認められなかった。
【考察】
今回の測定では、腰痛と骨盤前傾角の関連性は認められず、腰痛とPPUとの間に関連性が認められた。その要因としては、骨盤前傾角は、年齢によって低下(骨盤後傾化)するといわれているが、今回は症例数が少ないことより、年齢による区分をもうけなかった。そのため骨盤前傾角のばらつきが非常に大きくなった。また、正面単純X線画像による骨盤前傾角の算出方法の問題としては、膝関節の屈曲による代償を判別することができない事である。そのため骨盤の後傾が実際以上に強調された症例が含まれていたと推察した。腰椎伸展可動域の主な制限要因は椎間関節の可動性の低下と推察した。これは、PPUの測定場面で、腰痛群では脊柱のたわみが全くなく、脊柱が一体化して動いているのが観察できたことによる。腰椎前弯が増強している症例では、すでに腰椎が伸展した状態となっているため、PPUが短値になったと推察した。
腰痛発生までの一連の経過は、股関節機能低下→腰椎での機能的代償→機能的代償の慢性化による腰椎周囲筋群の筋緊張の亢進→椎間関節の運動性の低下→腰痛の発生と推察した。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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