抄録
【始めに】
腰痛症患者において、日常生活の諸動作での腰椎骨盤リズムの乱れにより疼痛を来たしている者は多い。これには、各体節が正常から逸脱した軌跡を辿ることで周辺組織の微小損傷や過負荷を生じ、慢性疼痛の一因となることが推測される。今回、動作パターンの改善による疼痛コントロールを目的とし、自主訓練を中心にアプローチを行ったところ良好な結果が得られた為、以下に報告する。
【対象】
手術の既往や明らかな骨変形、他関節疾患のない外来腰痛患者18名で、自主訓練を実施できた男性4名、女性3名の合計7名(平均年齢34.3歳、16歳から51歳)。腰痛の既往:初発1名、5回未満4名、5回以上2名。
【方法】
股関節屈曲(骨盤前傾)、腹筋群と大殿筋の同時収縮による骨盤後傾を促がす自主訓練の指導を行い、1)椅子からの立ち上がり2)立位からの最大前屈3)最大前屈位からの復位動作4)立位での両上肢挙上5)各動作時の疼痛の程度(VAS)を約3週間の訓練前後で比較した。
【結果】
1)股関節の屈曲(骨盤の前傾)による身体重心前方移動の改善。2)骨盤の後方移動による腰椎過剰伸展の減少、股関節屈曲の増加による胸椎過剰屈曲の減少。4)前腹筋群の意識的収縮による腰椎過剰伸展の減少。3)に関しては著明な改善は得られなかった。上記動作時のVAS変化1)4/10から1/10、2)3/10から1/10、3)3/10から1/10、4)1/10から0/10。自主訓練の頻度:平均2set/日、3日/週。
【考察】
今回共通して確認された異常動作パターンの根源は腰椎中間位制御能力の低下にあると推測する。腰椎の過剰運動は骨盤前後傾不足を代償しての結果であり、これには腸腰筋の短縮や大殿筋・前腹筋群の収縮能力低下が関与していると考えられる。実際日常生活における諸動作では腹直筋の最大随意収縮の約10%程度で腰痛の予防が可能であると報告されている。よって今回のアプローチでは筋力訓練よりも各動作時における筋の動員パターンの再学習を目的とし自主訓練の指導を行った。結果として腰椎と股関節屈曲の分離、腰椎中間位制御能力の拡大などにより以前の異常動作パターンが改善された。身体重心が足部基底面に近づいた事で日常の諸動作において腰部周辺組織の過剰負荷による微小損傷の頻度が減少し疼痛軽減に繋がったものと考える。よって自主訓練の有効性は確認されたが依然として異常動作パターンが残存していた為、更に長期のアプローチ及びチェックが必要であると思われる。
【最後に】
今回の評価は各動作1回の評価であった為、日常生活における疼痛再現に多少欠けていた。今後は反復動作や重量物挙上、同一姿勢保持などの評価も取り入れ追跡調査していきたいと考える。