九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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変形性股関節症症例の歩行時中殿筋の筋活動特性について
-表面筋電図解析を用いて-
*高橋 朋子大平 高正神崎 裕美山野 薫久寿米木 和繁板井 晃彦寺田 信彦毛利 明博伊藤 恵
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p. 32

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抄録


【はじめに】
変形性股関節症症例は、筋力の量的低下のみならず、アライメント異常、筋活動様式の異常(筋力の質的低下)による影響が大きいと感じることが多い。
今回、両側変形性股関節症症例の中殿筋の活動様式の変化を、表面筋電図を用いて解析したので報告する。
【症例】
66歳女性。163cm、65kg。両側変形性股関節症(進行期)で、日整会判定基準は右43点、左46点。立位アライメントは、頭部は軽度屈曲・左回旋・右側屈位、上部体幹は伸展・右回旋・右肩上がり、下部体幹は屈曲・右回旋・骨盤前傾位、下肢は特に右で股関節屈曲、外転、外旋位、膝屈曲、下腿・足部外旋位であった。歩容は、中殿筋歩行を認め、立脚側へ体幹を側屈させ(右>左)、終始体幹は軽度前屈、股関節は屈曲位で伸展相を認めなかった。体幹、股関節可動域制限(右>左)、両側下肢筋力低下(MMT3から3+)を認めた。疼痛は、床起立や和式便所使用時、立位での家事動作、20分ほどの歩行において出現した(右>左)。
【方法】
表面筋電図測定装置(NORAXON社製 TEREMYO2400)を用い、電極は両側中殿筋に貼付した。サンプリング周波数は1,500Hzとし、0.05秒ごとに平均振幅を算出した。同時にビデオ撮影を行い、5m程の自由歩行計6回から左右各1歩行周期 (12サンプル) を抽出した。これより、所要時間、同側中殿筋の平均振幅波形及びピーク期の比較、検討を行った。
【結果】
所要時間は、各サンプルで異なっていた。平均振幅波形は、各サンプルで明らかな波形の違いを認め、全サンプルで遊脚期にも筋活動を認めた。ピーク期は、歩行周期全般に渡ってばらついていた。
【考察】
サンプル間の所要時間のばらつきは、跛行の時間的側面として評価できた。平均振幅波形は、足底接地期にピーク期を迎える健常者と症例では全く類似性を持たず、サンプル間でも規則性を持たなかった。
以上のことから、症例では、歩行周期や筋活動が一定して繰り返されず、時間的側面、筋活動様式の側面からも常に浮動的であった。また、健常者の歩行時中殿筋は、踵接地直後の急激な荷重に即応して、筋が衝撃を吸収するように遠心性に反応したり、内転方向のモーメントを制御したりするといわれている。しかし、症例ではピーク期が歩行周期全般に渡ってばらついており、荷重応答作用のみではないと考えられる。症例は常に骨盤前傾、股関節屈曲位といった立位アライメント異常や歩行時立脚側への体幹側屈などの跛行を認めた。そのため、側屈した体幹を正中位に戻すときに骨盤を引上げながら下肢を振り出す動作が生じ、正常歩行における中殿筋の作用とは異なる作用を作り出してしまっている。今回の症例においては、アライメント異常や疼痛が中殿筋の筋活動様式の異常と密接に関係していると考えられる。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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