抄録
【目的】
これまでに上腕骨近位端骨折の保存あるいは手術療法後の理学療法を経験した。その中で、関節拘縮により機能障害を引き起こし訓練に難渋するケースもあった。今回、上腕骨近位端骨折後の経過を基にその予後に関与する因子について検討したので報告する。
【対象】
当院に平成15年6月から平成18年3月に入院し理学療法を施行した上腕骨近位端骨折患者23名を対象とした。23名の内、保存療法(以下、C群)14名(男性2名 女性12名)、手術療法(以下、O群)9名(男性2名 女性7名)であり、平均年齢は71.1歳±18.1歳であった。O群は、髄内釘4名、K-wire3名、プレート2名であった。
【方法】
まず、C群において骨折型による分類により結節部と頚部に大別し退院時可動域を比較し、次に各療法での固定期間、ADL状況について同様の比較を行い関連性について検討した。
【結果】
1、骨折型による分類では、結節部が8名で屈曲128.7°±25.8、 外旋40°±24.9であり、頚部が6名で屈曲127.5°±27.7、外旋30.8°±24.1であった。
2、固定期間はC群43.1±11.5日(胸壁固定23.7±12.1日)、O群19.6±22.2日(胸壁固定20±11.9日)であり固定期間による可動域への影響はなかった。
3、結髪動作では、動作自立14名でC群10名、O群4名となり、C群は屈曲141.5°±10.5、 外旋47.5°±17、O群は屈曲131.2°±29.5、外旋43.7°±9.5であった。動作不可9名でC群4名、O群5名となり、 C群は屈曲93°±18.5、 外旋10°±10、O群は屈曲98°±5.7、外旋26°±12.9であった。C群の動作不可な方は外旋が有意に低下していた(p<0.01)。同様にO群でも屈曲・外旋ともに有意に低下していた。(p<0.05)。
【考察】
まず固定期間による影響というのが無かったことに関して術後に胸壁固定期間が短い症例もあり一概にいえないが、骨癒合の程度に留意するC群に比べ早期に運動をすすめるO群と退院時の可動性ということでは変わらなかったということでは非侵襲での有用性が伺えた。またC群においても固定期間が退院時の可動性に影響を及ぼさなかった。保存的治療での早期運動の有効性についての報告があるが、今回の結果から骨癒合の経過を確認しながら行っても十分に可動性が獲得できると考える。
保存療法の場合、固定で下垂内旋位をとるため烏口上腕靭帯、肩甲下筋・大胸筋等が短縮位となり、屈曲・外旋の制限が引き起こされると予想していた。骨折型分類の中で結節部は外旋域が保たれていたのに対し頚部では低下していた。これは回旋することにより骨折部への剪断力がより作用すると危惧した結果によるものである。さらに結髪動作でも外旋域の獲得に大きな影響があることより今後固定法を含めた訓練の検討が必要と考える。