九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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失行症状の改善により食事・整容動作に改善を認めた一例
*福田 久徳花山 友隆
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キーワード: 失行症, ADL, 身体図式
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p. 34

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抄録


【はじめに】
今回、食事・整容動作に失行症状が著しく影響を及ぼしていた症例を担当した。失行症の定義は研究者により様々だが、ここでは山鳥の「日常慣用の物品の使用障害」とし、河村らによる失行症の説明図式を参考にアプローチを行った。その結果、食事・整容動作における失行症状が軽減し、若干の改善を認めたので報告する。
【症例紹介及び作業療法評価】
80代の男性。発症日:H17.11.8に脳梗塞の診断。当院入院日:H18.1.5、翌日より作業療法開始。既往歴:心房細動、糖尿病。損傷部位:上左前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後大脳動脈領域に梗塞巣を認めた。Br-Stage右上肢・手指・下肢共に2。感覚は重度鈍麻、右同名半盲の疑いあり。高次脳機能障害は、全失語、観察より観念失行・口腔顔面失行・観念運動失行、右半側空間失認、注意障害が疑われた。食事・整容動作は非麻痺側を使用し、手づかみ・皿すすりではあるが食事動作軽介助、整容動作全介助にて行っており、Barthel Index(BI):20/100点、機能的自立度評価表(FIM):39/126点
【評価結果の解釈及びアプローチ】
本症例の呈している症状を河村らのモデルを参考に行為概念系と行為産出系に細分化し、アプローチを行った。森田は「道具を認知するということは、道具の構造と機能(用途)をイメージできるということである」と述べており、まず道具使用に関して行為概念系からのアプローチが必要だと考えられた。行為の概念を獲得するためにセラピストの全介助にて道具の使用方法の経験を重ねた。また、行為産出系に対しては道具使用の位置・方向性の適正化を図ることを目的とした。アプローチでは物品操作課題において、視覚情報と体性感覚情報の統合が行われるように促しながら道具操作に必要であるとされる身体図式の獲得を図った。また、テーブルを利用することで外空間の枠組みを作り、自己身体と外空間の認識を促した。
【結果と考察】
症例は食事動作・整容動作は促しにて修正可能となった (BI:40/100点、FIM:57/126点。食事・整容共に5点) 。道具使用時では道具の方向性に適正化が図られ、食事の際の食べこぼしの減少、整容の際に失行の影響はほぼ見られなくなった。また、林らも「ビデオによる視覚刺激と徒手的誘導による体性感覚どちらの刺激も有効である」と述べているように本症例にとっても道具の使用をセラピストの介助や視覚的に確認することで、過去に経験していた動作を想起することが可能であったと考えられる。
【まとめ】
今後の課題として、行為概念系の確立により、同じ概念を持ち合わせた道具の使用へと汎化(例えばスプーンで物をすくうという概念が獲得されれば、おたまで食べ物を皿へとつぎ分けることができるのか)が可能なのか症例数を重ね、検討していく必要がある。

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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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